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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン2 「感想」

観測術式が、

さらに深層へ潜る。


巨大観測盤の上を、

無数の光線が走った。


感情波形、

急上昇。


観測層との接続率、

限界突破。


ベアトリクスが、

歯を食いしばる。


「……来ます」


その瞬間。


向こう側の“情報”が、

一気に流れ込んだ。


だが。


それは、

神託ではなかった。


啓示でも。


宇宙の真理でもない。


ただの。


感想欄だった。


『この悲劇好き』


声。


男とも女とも分からない。


軽い。


楽しそう。


『あのキャラ推せる』


別の声。


『もっと曇らせて』


『ここで死んだら神展開』


『救済まだ?』


『この主人公、

 最近弱いな』


『悪役令嬢最高』


『脇役回、

 意外と刺さった』


次々に。


言葉が。


感情が。


奔流となって、

地下観測室へ流れ込む。


空気が凍った。


誰も、

動けない。


ミレイユの顔から、

完全に血の気が消える。


「……わたしたち」


震える声。


瞳が揺れている。


「感想書かれてる……」


その一言が、

あまりにも重かった。


感想。


評価。


考察。


推し。


期待。


この世界の人生は、

向こう側で、

そんなものとして消費されている。


セシルが、

乾いた笑いを漏らす。


「人生がレビューサイト扱いかよ……」


笑えない。


誰も。


否定できなかった。


観測術式は、

さらに感情断片を拾い続ける。


『今回、

 演出強すぎて泣いた』


『あの救済シーン神』


『主人公もっと苦しんでほしい』


『ルフレ嫌いだけど分かる』


『悪役令嬢、

 最近主人公食ってる』


『ここから絶対終末展開だろ』


『続き気になる』


『更新まだ?』


更新。


その単語に、

ベアトリクスが吐き気を堪えるように口を押さえた。


「……連載作品扱い……」


ミレイユが、

小さく肩を震わせる。


「苦しかったのに……」


「怖かったのに……」


「死にそうだったのに……」


なのに。


向こう側では。


それが、

“面白い展開”として語られている。


だが。


ここで、

レオノーラは気づいてしまう。


違和感へ。


彼女は、

静かに目を細める。


違う。


観測者たちは、

別に残虐さだけで見ているわけではない。


『このシーン泣いた』


『救われてほしい』


『幸せになってくれ』


『このキャラ好き』


そんな感情も、

確かに混ざっている。


応援。


共感。


感動。


祈り。


向こう側の存在たちは、

本気で泣いている。


本気で苦しみ。


本気で続きを願っている。


だから。


余計に最悪だった。


悪意だけなら、

敵にできた。


残酷な神なら、

憎めた。


だが違う。


彼らは。


純粋に、

“楽しんでいる”。


感動している。


物語へ心を動かされている。


つまり。


善意なのだ。


人の人生へ、

涙を流しながら。


その悲劇を、

求め続ける。


レオノーラは、

ゆっくり息を吐く。


その横顔には、

怒りよりも、

深い嫌悪が浮かんでいた。


「……善良ですのね」


小さく呟く。


「だから、

 救いがありませんわ」


沈黙。


地下観測室へ、

なおも感想が流れ続ける。


『次の展開まだ?』


『ここから絶対盛り上がる』


『期待』


期待。


その言葉だけが。


異様な熱量で、

空間へ染みついていた。

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