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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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第22話『作者たち』Opening 「観測層侵入」

地下観測室。


王都地下深層。


かつては、

古代魔導研究施設だった場所。


今では、

世界そのものを解析する、

最前線だった。


天井一面へ展開された観測術式。


無数の光輪。


魔力演算式。


感情波形。


そして中央には。


空の巨大魔法陣と同期した、

超大型観測盤。


だが。


最近の観測結果は、

あまりにも異常だった。


“背景人物消失”。


それが、

加速している。


昨日まで存在していた人間が、

世界から削除される。


記録。


記憶。


存在痕跡。


全部。


最初からいなかったみたいに、

消える。


しかも。


空の巨大魔法陣は、

逆に安定化していた。


脈動は滑らかになり。


干渉精度は増し。


世界そのものへ、

完全に定着し始めている。


つまり。


観測者側が、

こちらの世界へ、

本格的に根を下ろし始めた。


観測室の空気は重い。


誰も、

軽口を叩けない。


その中で。


セシル・アークライトが、

術式盤へ寄りかかりながら言う。


「……で」


「本当にやるのか?」


向かい側。


ベアトリクス・ギアハートは、

高速で術式を展開していた。


数百枚を超える魔導スクリーン。


無数の計算式。


感情収束ライン。


観測波形。


彼女は一切迷わない。


「やります」


即答。


怖い。


セシルが、

疲れた顔で煙草を弄ぶ。


「観測返しだぞ」


「理論上、

 存在侵食起きる可能性あるんだが」


ベアトリクスは、

術式を書き換えながら答える。


「ありますね」


「高確率で」


怖い。


今回の目的。


それは、

初の“逆観測”。


今までは違った。


彼らは、

一方的に見られていただけ。


感情を。


人生を。


悲劇を。


物語として消費されてきた。


だが今回は。


こちらから、

“向こう側”を見る。


禁断。


本来なら、

絶対に踏み込んではならない領域。


方法は単純。


だからこそ危険だった。


観測術式を反転。


感情収束ラインを逆流。


運命律そのものへ刻まれた、

“視線”を追跡する。


つまり。


「見ている者」を、

逆に見る。


だが。


観測とは、

常に相互認識だ。


見返した瞬間。


こちらもまた、

“向こう側”へ認識される。


存在座標を捕捉される。


最悪の場合。


人格侵食。


精神崩壊。


あるいは。


“観測対象”として、

完全固定。


レオノーラは、

静かに巨大術式を見上げる。


青白い光が、

彼女の横顔を照らしていた。


「成功すれば」


静かな声。


「敵の正体が分かりますわ」


沈黙。


セシルは、

苦々しく笑った。


「失敗したら?」


ベアトリクス。


術式起動キーへ手を置いたまま、

淡々と言う。


「脳が焼ける程度です」


軽い。


軽く言うな。


ミレイユの顔が青ざめる。


アルベルトですら、

一歩引いた。


だが。


ベアトリクスだけは、

止まらない。


「もう、

 見ないふりは限界です」


「相手を知らなければ、

 対抗できない」


その言葉だけは、

研究者ではなく。


完全に、

反逆者のものだった。


そして。


術式起動。


地下観測室全体が、

轟音と共に震える。


巨大観測盤、

展開。


空の巨大魔法陣と、

地下術式が同期する。


びきり、と。


世界そのものが、

軋んだ。


感情波形、

急上昇。


観測ライン接続。


運命律深層、

強制開放。


次の瞬間。


世界から、

“色”が抜けた。


赤。


青。


金。


全部、

消える。


人間も。


壁も。


光も。


灰色へ変わる。


いや。


違う。


色だけではない。


“現実感”そのものが、

剥離していく。


空気が薄い。


音が遠い。


存在境界が、

溶け始める。


ミレイユが、

小さく息を呑む。


「……なに、

 これ……」


誰も答えられない。


そして。


巨大観測盤中央。


闇が開いた。


底の見えない、

“向こう側”。


観測層接続開始。


その瞬間。


何かが。


確かに、

こちらを見返した。

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