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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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ラストシーン

「開眼」


 夜。


 王都。


 復旧途中の街は、異様な静けさに包まれていた。


 誰も眠っていない。


 誰も空を見たくない。


 なのに。


 全員、空を意識してしまう。


 頭上。


 巨大魔法陣。


 それが。


 今までで最大規模の脈動を始めていた。


 どくん。


 どくん。


 まるで。


 巨大な生物の心臓みたいに。


 空そのものが脈打っている。


 王都全域の窓ガラスが震える。


 街灯が明滅する。


 空間魔力が、異常濃度まで上昇。


 観測院では警報が鳴り止まない。


「出力急上昇!」


「観測層、全面開放!」


「干渉率、限界突破します!」


 ベアトリクスが顔面蒼白で術式盤を睨む。


「まずい……」


「来る……!」


 空。


 巨大魔法陣の中心構造が、ゆっくり変形していく。


 円環。


 光輪。


 放射状構造。


 観測層。


 全てが、一点へ収束していく。


 王都中の人々が、それを見上げていた。


 逃げられない。


 見てはいけないと分かっているのに。


 視線を外せない。


 まるで。


 世界そのものが、“見ろ”と命令しているみたいに。


 どくん。


 脈動。


 次の瞬間。


 空が、開いた。


 巨大な。


 “目”。


 王都上空いっぱいに広がる、光の瞳。


 あまりにも巨大。


 あまりにも異質。


 それは生物ではない。


 だが。


 確実に、“こちら”を見ていた。


 民衆の誰かが、息を呑む。


「……あ」


 その一言だけで十分だった。


 全員、理解してしまった。


 見られていた。


 本当に。


 最初から。


 人生も。


 恋も。


 涙も。


 苦しみも。


 全部。


 観測されていた。


 広場で、誰かが膝をつく。


 子供が泣く。


 祈り始める者。


 発狂する者。


 空へ石を投げる者。


 だが。


 誰一人として、目を逸らせない。


 巨大な瞳が。


 王都を。


 人間を。


 静かに見下ろしていた。


 そして。


 初めて。


 “向こう側の意思”が流れ込んできた。


 言葉ではない。


 音ですらない。


 感情。


 濁流みたいな欲望。


 期待。


 熱狂。


 無数の感情が、空間へ直接流れ込む。


 頭の中へ響く。


『続きを』


『もっと』


『感動を』


『泣かせて』


『愛して』


『壊して』


『救って』


『続きを』


『続きを』


『続きを』


 王都全域で悲鳴。


 人々が頭を押さえる。


 感情が直接流し込まれる。


 “観客たち”の欲望が。


 世界そのものを通して。


 レオノーラは、その空を睨み返した。


 風が吹く。


 黒髪が揺れる。


 巨大な瞳。


 観測者。


 世界の外側。


 それでも。


 彼女は、一歩も引かなかった。


 恐怖はある。


 当然。


 だが。


 ここで視線を逸らせば。


 本当に、人間は“舞台装置”になる。


 レオノーラは静かに息を吐く。


 そして。


 巨大な目を真っ直ぐ見上げた。


 悪役令嬢として。


 物語否定者として。


 人間側の代表として。


 夜空の巨大な瞳が、ゆっくり瞬く。


 まるで。


 彼女へ興味を持ったみたいに。


 その光景を見ながら。


 レオノーラは、冷たく呟いた。


「ついに“観客”は――」


 一拍。


「舞台の外から見ているだけでは、満足できなくなりましたのね……」

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