シーン3 「主人公拒絶」
王都。
悲劇演出暴走。
街全体が、もう正常ではなかった。
広場では涙の再会。
橋の下では悲恋の別れ。
病院では奇跡を求める祈り。
学園では、青春劇みたいな告白が強制発生している。
誰も望んでいないのに。
世界だけが、“盛り上がり”を求め続けていた。
そして。
その中心。
ミレイユ・フェルナンがいた。
「助けてください……!」
「あなたなら奇跡を……!」
「お願いです!」
人々が縋る。
泣きながら。
祈りながら。
希望を見る目で。
全部。
彼女へ向いていた。
視線。
期待。
願望。
救済欲求。
それらが集中するたび。
空間魔力が跳ね上がる。
運命律が反応する。
花弁が舞った。
淡い光が降る。
風が優しく吹き抜ける。
空気そのものが、感動演出へ変質していく。
完全に。
“主人公登場シーン”だった。
ミレイユの髪が光に照らされる。
涙が頬を伝う。
その涙すら。
世界は、美しく演出していた。
「……っ」
ミレイユの呼吸が乱れる。
苦しい。
視線が。
期待が。
重すぎる。
彼女は知っている。
奇跡には代償がある。
誰かを救えば。
どこかで別の誰かが壊れる。
運命律は、そういう世界だ。
なのに。
人々は求める。
もっと。
もっと救済を。
「あなたなら!」
「ミレイユ様なら!」
「お願いします……!」
空が脈動した。
巨大魔法陣。
その光輪が、高速回転を始める。
観測領域側。
“向こう”が熱狂している。
拍手。
歓声。
見えない観客たちの期待が、空間を震わせる。
ミレイユの周囲へ、強制演出が集中した。
光量増加。
共鳴音。
風演出。
群衆誘導。
完全に。
世界そのものが、彼女を舞台中央へ固定しようとしている。
主人公として。
救済ヒロインとして。
ミレイユは震えた。
「違う……」
小さな声。
「違う……!」
周囲の空気が揺れる。
運命律が反応。
光が強まる。
まるで。
“もっと感情を出せ”と言わんばかりに。
ミレイユの瞳から涙が溢れる。
「わたし……」
「そんなものじゃない……!」
空間振動。
巨大魔法陣、明滅。
世界がざわめく。
それでも。
人々は止まらない。
期待する。
祈る。
見つめる。
続きを。
感動を。
救済を。
その瞬間。
ミレイユの中で。
何かが切れた。
彼女は泣きながら叫ぶ。
「わたしは――!!」
一瞬。
世界が静止した。
そして。
「役じゃないッ!!」
轟音。
王都全域、大震動。
空気が裂ける。
巨大魔法陣が、初めて不規則に明滅した。
運命律異常反応。
観測領域ノイズ発生。
空間全域エラー。
主人公本人による。
脚本拒絶。
それは。
世界法則にとって、想定外だった。
花弁演出、停止。
強制光源、乱れる。
空間共鳴音が、耳障りなノイズへ変わる。
今まで流れていた“BGM”みたいな魔力振動が、壊れた。
風が止まる。
歓声が途切れる。
空が。
動揺していた。
セシルが、呆然と呟く。
「……初めてだ」
観測盤には、無数のエラー表示。
運命律処理不能。
脚本進行停止。
主人公同期失敗。
ベアトリクスが震える声を漏らす。
「世界法則側が……」
「処理落ちしてる……」
ミレイユは、その場へ崩れ落ちた。
泣きながら。
震えながら。
それでも。
初めて。
自分の意思で、“役”を拒絶した。
空。
巨大魔法陣。
その中心が、不気味に揺らぐ。
まるで。
世界そのものが。
理解できないものを見たみたいに。




