ラストシーン 「敵意」
その宣言の直後だった。
◇
空が、
止まった。
◇
風。
音。
群衆のざわめき。
◇
一瞬。
世界そのものが、
呼吸を忘れる。
◇
王都中央広場。
数万人が、
同時に空を見上げた。
◇
巨大魔法陣。
◇
それが。
初めて。
明確な“感情”を見せた。
◇
敵意。
◇
どくん。
◇
脈動。
◇
次の瞬間。
巨大魔法陣の回転速度が、
急激に加速した。
◇
光量暴走。
◇
夜空が、
昼みたいに白く染まる。
◇
空間振動。
◇
広場の石畳が、
びりびり震え始める。
◇
さらに。
王都全域の術式が、
一斉共鳴。
◇
街灯。
結界。
転送陣。
全部が、
異常点滅。
◇
まるで。
都市そのものが、
悲鳴を上げていた。
◇
そして。
空が裂ける。
◇
巨大魔法陣の外周。
そのさらに外側。
◇
黒い空間。
◇
“観測領域”。
◇
今まで、
決して完全には開かなかった場所が。
ゆっくり。
開放され始める。
◇
人々が、
息を呑む。
◇
だが。
さらに異常なのは。
◇
――拍手が止まったことだった。
◇
今まで。
どれほど悲劇が起きても。
どれほど絶望しても。
空の向こうには、
歓声があった。
◇
拍手。
熱狂。
期待。
◇
だが。
今は違う。
◇
完全な沈黙。
◇
何万人もの観客が。
一斉に。
笑うのをやめたみたいな、
静寂。
◇
その不気味さに。
広場の誰もが、
震えた。
◇
観測術式盤を見ていた
ベアトリクス・ギアハート
が、
顔面蒼白になる。
◇
「まずい……」
◇
掠れた声。
◇
「観客側、
怒ってる……!」
◇
瞬間。
空が、
さらに軋んだ。
◇
巨大魔法陣中心部。
◇
幾重もの光輪が、
ゆっくり開いていく。
◇
まるで。
瞼みたいに。
◇
そして。
そこに現れる。
◇
巨大な、
“目”。
◇
紋様。
術式。
光学構造。
◇
なのに。
誰もが本能で理解してしまう。
◇
あれは。
見ている。
◇
王都を。
人間を。
レオノーラを。
◇
広場中が、
恐怖で硬直する。
◇
誰も動けない。
◇
だが。
その中で。
◇
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
だけは、
一歩も引かなかった。
◇
逃げない。
俯かない。
◇
真正面から。
空の“目”を、
睨み返している。
◇
風が吹く。
黒髪が揺れる。
◇
巨大魔法陣が、
怒りみたいに脈動した。
◇
それでも。
レオノーラは、
笑った。
◇
冷たく。
挑発するみたいに。
◇
「物語へ従わない人間を――」
◇
一拍。
◇
「世界はついに、
“悪役”として排除し始めましたのね……」




