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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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175/250

ラストシーン 「敵意」

その宣言の直後だった。


     ◇


 空が、

 止まった。


     ◇


 風。


 音。


 群衆のざわめき。


     ◇


 一瞬。


 世界そのものが、

 呼吸を忘れる。


     ◇


 王都中央広場。


 数万人が、

 同時に空を見上げた。


     ◇


 巨大魔法陣。


     ◇


 それが。


 初めて。


 明確な“感情”を見せた。


     ◇


 敵意。


     ◇


 どくん。


     ◇


 脈動。


     ◇


 次の瞬間。


 巨大魔法陣の回転速度が、

 急激に加速した。


     ◇


 光量暴走。


     ◇


 夜空が、

 昼みたいに白く染まる。


     ◇


 空間振動。


     ◇


 広場の石畳が、

 びりびり震え始める。


     ◇


 さらに。


 王都全域の術式が、

 一斉共鳴。


     ◇


 街灯。


 結界。


 転送陣。


 全部が、

 異常点滅。


     ◇


 まるで。


 都市そのものが、

 悲鳴を上げていた。


     ◇


 そして。


 空が裂ける。


     ◇


 巨大魔法陣の外周。


 そのさらに外側。


     ◇


 黒い空間。


     ◇


 “観測領域”。


     ◇


 今まで、

 決して完全には開かなかった場所が。


 ゆっくり。


 開放され始める。


     ◇


 人々が、

 息を呑む。


     ◇


 だが。


 さらに異常なのは。


     ◇


 ――拍手が止まったことだった。


     ◇


 今まで。


 どれほど悲劇が起きても。


 どれほど絶望しても。


 空の向こうには、

 歓声があった。


     ◇


 拍手。


 熱狂。


 期待。


     ◇


 だが。


 今は違う。


     ◇


 完全な沈黙。


     ◇


 何万人もの観客が。


 一斉に。


 笑うのをやめたみたいな、

 静寂。


     ◇


 その不気味さに。


 広場の誰もが、

 震えた。


     ◇


 観測術式盤を見ていた

 ベアトリクス・ギアハート

 が、

 顔面蒼白になる。


     ◇


「まずい……」


     ◇


 掠れた声。


     ◇


「観客側、

 怒ってる……!」


     ◇


 瞬間。


 空が、

 さらに軋んだ。


     ◇


 巨大魔法陣中心部。


     ◇


 幾重もの光輪が、

 ゆっくり開いていく。


     ◇


 まるで。


 瞼みたいに。


     ◇


 そして。


 そこに現れる。


     ◇


 巨大な、

 “目”。


     ◇


 紋様。


 術式。


 光学構造。


     ◇


 なのに。


 誰もが本能で理解してしまう。


     ◇


 あれは。


 見ている。


     ◇


 王都を。


 人間を。


 レオノーラを。


     ◇


 広場中が、

 恐怖で硬直する。


     ◇


 誰も動けない。


     ◇


 だが。


 その中で。


     ◇


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 だけは、

 一歩も引かなかった。


     ◇


 逃げない。


 俯かない。


     ◇


 真正面から。


 空の“目”を、

 睨み返している。


     ◇


 風が吹く。


 黒髪が揺れる。


     ◇


 巨大魔法陣が、

 怒りみたいに脈動した。


     ◇


 それでも。


 レオノーラは、

 笑った。


     ◇


 冷たく。


 挑発するみたいに。


     ◇


「物語へ従わない人間を――」


     ◇


 一拍。


     ◇


「世界はついに、

 “悪役”として排除し始めましたのね……」

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