シーン3 「悪役令嬢の告発」
広場は、
もう崩壊寸前だった。
◇
怒号。
悲鳴。
泣き声。
◇
誰かが笑っている。
誰かが祈っている。
誰かが地面へ崩れ落ちている。
◇
王都中央広場。
文明そのものの精神崩壊。
◇
そして。
その中心だけが、
異様なほど静かだった。
◇
演壇。
◇
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
だけが、
立ち続けている。
◇
逃げない。
俯かない。
空も、
群衆も、
真正面から見据えている。
◇
「じゃあ俺たちは何なんだ!?」
◇
群衆の叫び。
◇
「キャラクターか!?」
「人生全部、
偽物だったのか!?」
◇
絶望。
◇
それは、
当然の問いだった。
◇
人生。
愛。
涙。
全部が、
“演出”だったかもしれない。
◇
なら。
自分とは何なのか。
◇
人間ですら、
ないのか。
◇
沈黙。
◇
レオノーラは、
静かに目を閉じた。
◇
風が吹く。
◇
巨大魔法陣が、
低く脈動する。
◇
まるで。
次の台詞を、
待っているみたいに。
◇
だが。
彼女は。
世界が望む答えを、
口にしなかった。
◇
「偽物でも結構」
◇
広場が、
静まり返る。
◇
誰も、
呼吸できない。
◇
レオノーラは、
真っ直ぐ前を向いたまま続けた。
◇
「苦しみが本物なら、
人間は本物ですわ」
◇
空気が止まる。
◇
群衆。
兵士。
研究者。
◇
全員が、
その言葉を理解できずにいた。
◇
ただ一人。
ミレイユ・フェルナン
だけが、
目を見開く。
◇
涙が、
止まっていた。
◇
隣で。
セシル・アークライト
も、
静かに目を見開いている。
◇
レオノーラは続けた。
◇
「誰かを愛して、
苦しかったなら」
◇
「失いたくなくて、
怖かったなら」
◇
「涙を流したなら」
◇
一拍。
◇
「それは、
誰にも奪えない貴方自身です」
◇
沈黙。
◇
誰も、
喋れない。
◇
世界が作り物でも。
感情の痛みは、
本物。
◇
誰かを好きになって、
胸が痛かった。
失うのが怖かった。
泣いた。
叫んだ。
◇
なら。
それは。
もう、
“演出”では終われない。
◇
人間は。
キャラクターではない。
◇
レオノーラは、
ゆっくり空を見上げた。
◇
巨大魔法陣。
観測領域。
見えない観客。
◇
全部へ向けて。
彼女は、
宣言する。
◇
「誰かに見られるためではなく」
◇
一拍。
◇
「自分のために生きなさい」
◇
その瞬間。
広場のどこかで。
誰かが、
泣き崩れた。
◇
だが。
今までとは違う。
◇
絶望ではない。
◇
自分の涙を、
初めて“自分のもの”だと思えたみたいに。
◇
顔を上げる。
◇
一人。
◇
また一人。
◇
泣きながら。
それでも。
空ではなく。
前を見る者たちが、
現れ始める。
◇
そして。
その様子を。
巨大魔法陣だけが、
不気味に見下ろしていた。




