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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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174/250

シーン3 「悪役令嬢の告発」

広場は、

 もう崩壊寸前だった。


     ◇


 怒号。


 悲鳴。


 泣き声。


     ◇


 誰かが笑っている。


 誰かが祈っている。


 誰かが地面へ崩れ落ちている。


     ◇


 王都中央広場。


 文明そのものの精神崩壊。


     ◇


 そして。


 その中心だけが、

 異様なほど静かだった。


     ◇


 演壇。


     ◇


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 だけが、

 立ち続けている。


     ◇


 逃げない。


 俯かない。


 空も、

 群衆も、

 真正面から見据えている。


     ◇


「じゃあ俺たちは何なんだ!?」


     ◇


 群衆の叫び。


     ◇


「キャラクターか!?」


「人生全部、

 偽物だったのか!?」


     ◇


 絶望。


     ◇


 それは、

 当然の問いだった。


     ◇


 人生。


 愛。


 涙。


 全部が、

 “演出”だったかもしれない。


     ◇


 なら。


 自分とは何なのか。


     ◇


 人間ですら、

 ないのか。


     ◇


 沈黙。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに目を閉じた。


     ◇


 風が吹く。


     ◇


 巨大魔法陣が、

 低く脈動する。


     ◇


 まるで。


 次の台詞を、

 待っているみたいに。


     ◇


 だが。


 彼女は。


 世界が望む答えを、

 口にしなかった。


     ◇


「偽物でも結構」


     ◇


 広場が、

 静まり返る。


     ◇


 誰も、

 呼吸できない。


     ◇


 レオノーラは、

 真っ直ぐ前を向いたまま続けた。


     ◇


「苦しみが本物なら、

 人間は本物ですわ」


     ◇


 空気が止まる。


     ◇


 群衆。


 兵士。


 研究者。


     ◇


 全員が、

 その言葉を理解できずにいた。


     ◇


 ただ一人。


 ミレイユ・フェルナン

 だけが、

 目を見開く。


     ◇


 涙が、

 止まっていた。


     ◇


 隣で。


 セシル・アークライト

 も、

 静かに目を見開いている。


     ◇


 レオノーラは続けた。


     ◇


「誰かを愛して、

 苦しかったなら」


     ◇


「失いたくなくて、

 怖かったなら」


     ◇


「涙を流したなら」


     ◇


 一拍。


     ◇


「それは、

 誰にも奪えない貴方自身です」


     ◇


 沈黙。


     ◇


 誰も、

 喋れない。


     ◇


 世界が作り物でも。


 感情の痛みは、

 本物。


     ◇


 誰かを好きになって、

 胸が痛かった。


 失うのが怖かった。


 泣いた。


 叫んだ。


     ◇


 なら。


 それは。


 もう、

 “演出”では終われない。


     ◇


 人間は。


 キャラクターではない。


     ◇


 レオノーラは、

 ゆっくり空を見上げた。


     ◇


 巨大魔法陣。


 観測領域。


 見えない観客。


     ◇


 全部へ向けて。


 彼女は、

 宣言する。


     ◇


「誰かに見られるためではなく」


     ◇


 一拍。


     ◇


「自分のために生きなさい」


     ◇


 その瞬間。


 広場のどこかで。


 誰かが、

 泣き崩れた。


     ◇


 だが。


 今までとは違う。


     ◇


 絶望ではない。


     ◇


 自分の涙を、

 初めて“自分のもの”だと思えたみたいに。


     ◇


 顔を上げる。


     ◇


 一人。


     ◇


 また一人。


     ◇


 泣きながら。


 それでも。


 空ではなく。


 前を見る者たちが、

 現れ始める。


     ◇


 そして。


 その様子を。


 巨大魔法陣だけが、

 不気味に見下ろしていた。

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