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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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168/250

シーン3 「救済ヒロイン」

最初は、

 偶然だと思われていた。


     ◇


 橋崩落。


 負傷者多数。


 混乱する現場。


 そこへ。


 たまたま、

 ミレイユ・フェルナン

 が通りかかる。


     ◇


 彼女は、

 迷わず駆け出した。


「こっちです!」


「まだ息があります!」


     ◇


 涙を流す子供を抱き締め。


 瓦礫へ手を伸ばし。


 治癒魔法を発動。


     ◇


 淡い光。


 温かな魔力。


 泣き声が止む。


     ◇


 周囲の人々が、

 呆然と彼女を見る。


     ◇


「助かった……」


「この子が救ってくれた……」


     ◇


 奇跡。


 希望。


 救済。


     ◇


 完全に。


 “ヒロイン”

 だった。


     ◇


 そして。


 それは、

 一度では終わらなかった。


     ◇


 病院区画。


 港湾地区。


 学園通路。


 悲劇が起きるたび。


     ◇


 必ず。


 ミレイユが、

 “偶然”現場へ居合わせる。


     ◇


 負傷者を救い。


 泣いている人を慰め。


 奇跡を起こし。


 抱き締める。


     ◇


 まるで。


 世界そのものが。


 彼女を、

 救済役へ配置しているみたいに。


     ◇


 しかも。


 民衆は、

 彼女へ熱狂し始めていた。


     ◇


「女神様だ……」


「また救ってくれた……!」


「奇跡を……!」


     ◇


 期待。


 祈り。


 憧れ。


 視線。


     ◇


 全部が。


 ミレイユへ集中する。


     ◇


 だが。


 彼女自身は。


 もう、

 限界だった。


     ◇


 知っている。


 奇跡には代償がある。


     ◇


 誰かを救えば。


 どこかで、

 別の誰かが苦しむ。


 魔力を奪われる。


 生活が壊れる。


 命が削られる。


     ◇


 なのに。


 世界は。


 さらに救済を求めてくる。


     ◇


 港湾地区。


 夕暮れ。


 負傷者救助後。


 群衆が、

 彼女を囲んでいた。


     ◇


「お願いします……!」


「娘を助けてください!」


「あなたなら……!」


     ◇


 期待。


 懇願。


 信仰。


     ◇


 ミレイユの呼吸が、

 浅くなる。


     ◇


「やめて……」


     ◇


 声が震える。


     ◇


「期待しないで……」


     ◇


 空気が揺れる。


 花弁が舞う。


 光粒子発生。


     ◇


 運命律が、

 反応している。


     ◇


「わたし、

 救えない……!」


     ◇


 その瞬間。


 世界が脈動した。


     ◇


 巨大魔法陣。


 発光。


 観測出力急増。


 空間共鳴。


 拍手。


     ◇


 ぱち。


 ぱちぱち。


     ◇


 見えない観客たちの、

 喝采。


     ◇


 ミレイユの涙。


 震える肩。


 絶望。


 苦悩。


     ◇


 全部。


 “絵になっていた”。


     ◇


 完全に。


 “苦悩するヒロイン”

 演出。


     ◇


 悪趣味だった。


     ◇


「ミレイユ!!」


     ◇


 次の瞬間。


 黒い結界が展開される。


     ◇


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 だった。


     ◇


 視線遮断。


 感情干渉阻害。


 観測遮蔽。


     ◇


 群衆が、

 一瞬たじろぐ。


     ◇


 レオノーラは、

 ミレイユを抱き寄せた。


「こちらへ」


     ◇


 だが。


 その瞬間。


 空が軋む。


     ◇


 巨大魔法陣、

 脈動加速。


     ◇


 風が吹く。


 人の流れが、

 不自然に変わる。


 群衆が、

 無意識に中央へ集まり始める。


     ◇


 まるで。


 空そのものが。


 ミレイユを、

 舞台中央へ押し戻そうとしていた。


     ◇


 レオノーラは、

 空を睨み上げる。


     ◇


 理解する。


     ◇


 運命律はもう。


 ミレイユを、

 単なるヒロインではなく。


     ◇


 “救済装置”

 として扱い始めている。

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