シーン3 「救済ヒロイン」
最初は、
偶然だと思われていた。
◇
橋崩落。
負傷者多数。
混乱する現場。
そこへ。
たまたま、
ミレイユ・フェルナン
が通りかかる。
◇
彼女は、
迷わず駆け出した。
「こっちです!」
「まだ息があります!」
◇
涙を流す子供を抱き締め。
瓦礫へ手を伸ばし。
治癒魔法を発動。
◇
淡い光。
温かな魔力。
泣き声が止む。
◇
周囲の人々が、
呆然と彼女を見る。
◇
「助かった……」
「この子が救ってくれた……」
◇
奇跡。
希望。
救済。
◇
完全に。
“ヒロイン”
だった。
◇
そして。
それは、
一度では終わらなかった。
◇
病院区画。
港湾地区。
学園通路。
悲劇が起きるたび。
◇
必ず。
ミレイユが、
“偶然”現場へ居合わせる。
◇
負傷者を救い。
泣いている人を慰め。
奇跡を起こし。
抱き締める。
◇
まるで。
世界そのものが。
彼女を、
救済役へ配置しているみたいに。
◇
しかも。
民衆は、
彼女へ熱狂し始めていた。
◇
「女神様だ……」
「また救ってくれた……!」
「奇跡を……!」
◇
期待。
祈り。
憧れ。
視線。
◇
全部が。
ミレイユへ集中する。
◇
だが。
彼女自身は。
もう、
限界だった。
◇
知っている。
奇跡には代償がある。
◇
誰かを救えば。
どこかで、
別の誰かが苦しむ。
魔力を奪われる。
生活が壊れる。
命が削られる。
◇
なのに。
世界は。
さらに救済を求めてくる。
◇
港湾地区。
夕暮れ。
負傷者救助後。
群衆が、
彼女を囲んでいた。
◇
「お願いします……!」
「娘を助けてください!」
「あなたなら……!」
◇
期待。
懇願。
信仰。
◇
ミレイユの呼吸が、
浅くなる。
◇
「やめて……」
◇
声が震える。
◇
「期待しないで……」
◇
空気が揺れる。
花弁が舞う。
光粒子発生。
◇
運命律が、
反応している。
◇
「わたし、
救えない……!」
◇
その瞬間。
世界が脈動した。
◇
巨大魔法陣。
発光。
観測出力急増。
空間共鳴。
拍手。
◇
ぱち。
ぱちぱち。
◇
見えない観客たちの、
喝采。
◇
ミレイユの涙。
震える肩。
絶望。
苦悩。
◇
全部。
“絵になっていた”。
◇
完全に。
“苦悩するヒロイン”
演出。
◇
悪趣味だった。
◇
「ミレイユ!!」
◇
次の瞬間。
黒い結界が展開される。
◇
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
だった。
◇
視線遮断。
感情干渉阻害。
観測遮蔽。
◇
群衆が、
一瞬たじろぐ。
◇
レオノーラは、
ミレイユを抱き寄せた。
「こちらへ」
◇
だが。
その瞬間。
空が軋む。
◇
巨大魔法陣、
脈動加速。
◇
風が吹く。
人の流れが、
不自然に変わる。
群衆が、
無意識に中央へ集まり始める。
◇
まるで。
空そのものが。
ミレイユを、
舞台中央へ押し戻そうとしていた。
◇
レオノーラは、
空を睨み上げる。
◇
理解する。
◇
運命律はもう。
ミレイユを、
単なるヒロインではなく。
◇
“救済装置”
として扱い始めている。




