シーン4 「脚本装置」
王国中央劇場。
夜。
◇
かつて、
華やかな舞台芸術の象徴だった場所。
今は。
どこか、
墓場みたいに静かだった。
◇
巨大な客席。
誰もいない。
灯りも少ない。
舞台だけが、
淡く照らされている。
◇
なのに。
◇
ぱち。
◇
拍手が聞こえる。
◇
誰もいない空間から。
静かに。
ゆっくり。
◇
ぱち。
ぱちぱち。
◇
まるで。
見えない観客たちが、
開演を待っているみたいに。
◇
舞台中央。
ルフレ・ノクス
が立っていた。
◇
黒い礼装。
穏やかな微笑み。
優雅な立ち姿。
◇
だが。
その姿には、
決定的に欠けているものがあった。
◇
人間への温度。
◇
客席通路を、
ゆっくり歩く音。
◇
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、
舞台へ上がる。
◇
視線がぶつかる。
◇
拍手。
◇
ぱち。
◇
ルフレが、
楽しそうに微笑んだ。
「今夜の主役は、
あなたですか?」
◇
レオノーラは、
答えない。
◇
代わりに。
怒りを抑えない声で言った。
◇
「人間を、
脚本装置扱いするな」
◇
空気が張り詰める。
◇
だが。
ルフレは、
静かに笑った。
◇
「人は、
誰かの心を動かすために存在している」
◇
その言葉に。
レオノーラの目が、
冷たく細まる。
◇
「違いますわ」
◇
一歩、
前へ出る。
◇
「人は、
生きるために生きていますの」
◇
沈黙。
◇
その瞬間。
劇場全体が、
低く軋んだ。
◇
上空。
巨大魔法陣。
脈動。
◇
まるで。
世界そのものが、
二人の会話を聞いているみたいに。
◇
ルフレは、
舞台中央で静かに両手を広げる。
◇
「なら」
◇
「なぜ人は、
物語を求めるのでしょう」
◇
拍手。
◇
「なぜ悲劇に涙し」
◇
光粒子が舞う。
◇
「なぜ英雄へ憧れる」
◇
劇場照明が、
ゆっくり点灯する。
◇
「なぜ、
愛を美しいと思う?」
◇
まるで。
舞台演出そのものが、
彼へ味方していた。
◇
だが。
レオノーラは、
一歩も引かない。
◇
真正面から。
彼を見据える。
◇
「それは」
◇
一拍。
◇
「人間が、
物語を作ったのであって」
◇
空気が止まる。
◇
「物語のために、
人間が作られたわけではありませんわ」
◇
その瞬間。
劇場の拍手が、
ぴたりと止んだ。
◇
沈黙。
◇
巨大魔法陣だけが、
不気味に脈動している。
◇
ルフレは、
しばらく黙っていた。
◇
やがて。
静かに笑う。
◇
穏やかに。
優雅に。
そして。
決定的に、
相容れない笑みで。
◇
この瞬間。
二人の思想は、
完全に対立した。
◇
“物語のための人間”。
◇
“人間のための人生”。
◇
世界の在り方そのものを巡る、
戦いが始まっていた。




