シーン1 「事故」
王都各地。
異常は、
確実に広がっていた。
◇
しかも。
今度の運命律は、
露骨だった。
“悲劇”を選んでいる。
◇
中央橋。
修復工事区域。
夕方。
作業員たちが、
慌ただしく足場を組み直していた。
◇
その下。
若い恋人同士。
久々の再会。
互いに笑い合う。
◇
次の瞬間。
◇
金属音。
崩落。
◇
足場が、
突然折れた。
悲鳴。
橋上が傾く。
◇
「リナ!!」
「アルト!!」
◇
二人の手が伸びる。
だが。
届かない。
◇
片方だけが、
救助魔法へ届く。
もう片方は、
崩落した資材と共に落下。
◇
夕陽。
舞い散る火花。
伸ばされた手。
涙。
◇
異様なほど、
“絵になっていた”。
◇
病院区画。
今度は、
魔力病。
◇
原因不明。
進行速度異常。
若年層集中。
◇
「……余命、
三か月です」
◇
診察室。
崩れ落ちる婚約者。
泣き出す家族。
窓から差し込む夕光。
◇
まるで。
舞台。
◇
さらに。
港湾地区。
◇
軍用魔導船。
出航直前。
急な辺境派遣命令。
◇
恋人同士が抱き合う。
「帰ってくる」
「絶対だから」
◇
強風。
夕焼け。
飛び散る花弁型魔力。
船の汽笛。
◇
完全に、
演出されていた。
◇
問題は。
全部。
偶然ではないことだった。
◇
地下観測室。
巨大術式盤。
波形モニター。
◇
セシル・アークライト
が、
高速で術式ログを解析している。
◇
画面へ並ぶ数値。
事件発生時刻。
感情共鳴率。
観測反応。
◇
全部。
一致していた。
◇
「……やっぱりだ」
◇
セシルが、
低く呟く。
「事件直前、
運命律出力が急増してる」
◇
ベアトリクスが、
顔をしかめた。
「つまり、
誘発してる?」
◇
セシル、
頷く。
◇
「悲劇ほど、
観測反応が強い」
◇
観測盤が、
不気味に明滅する。
◇
「つまり」
一拍。
◇
「世界、
ウケる展開を選び始めてる」
◇
沈黙。
◇
誰も、
すぐには言葉を返せなかった。
◇
その空気の中。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、
静かに目を伏せる。
◇
怒っていた。
叫びではない。
冷たい怒り。
◇
「人命を、
娯楽最適化していますの……?」
◇
その瞬間。
観測盤の上で。
巨大魔法陣の波形が、
わずかに強く脈動した。
まるで。
誰かが、
その怒りすら楽しんでいるみたいに。




