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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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166/250

シーン1 「事故」

 王都各地。


 異常は、

 確実に広がっていた。


     ◇


 しかも。


 今度の運命律は、

 露骨だった。


 “悲劇”を選んでいる。


     ◇


 中央橋。


 修復工事区域。


 夕方。


 作業員たちが、

 慌ただしく足場を組み直していた。


     ◇


 その下。


 若い恋人同士。


 久々の再会。


 互いに笑い合う。


     ◇


 次の瞬間。


     ◇


 金属音。


 崩落。


     ◇


 足場が、

 突然折れた。


 悲鳴。


 橋上が傾く。


     ◇


「リナ!!」


「アルト!!」


     ◇


 二人の手が伸びる。


 だが。


 届かない。


     ◇


 片方だけが、

 救助魔法へ届く。


 もう片方は、

 崩落した資材と共に落下。


     ◇


 夕陽。


 舞い散る火花。


 伸ばされた手。


 涙。


     ◇


 異様なほど、

 “絵になっていた”。


     ◇


 病院区画。


 今度は、

 魔力病。


     ◇


 原因不明。


 進行速度異常。


 若年層集中。


     ◇


「……余命、

 三か月です」


     ◇


 診察室。


 崩れ落ちる婚約者。


 泣き出す家族。


 窓から差し込む夕光。


     ◇


 まるで。


 舞台。


     ◇


 さらに。


 港湾地区。


     ◇


 軍用魔導船。


 出航直前。


 急な辺境派遣命令。


     ◇


 恋人同士が抱き合う。


「帰ってくる」


「絶対だから」


     ◇


 強風。


 夕焼け。


 飛び散る花弁型魔力。


 船の汽笛。


     ◇


 完全に、

 演出されていた。


     ◇


 問題は。


 全部。


 偶然ではないことだった。


     ◇


 地下観測室。


 巨大術式盤。


 波形モニター。


     ◇


 セシル・アークライト

 が、

 高速で術式ログを解析している。


     ◇


 画面へ並ぶ数値。


 事件発生時刻。


 感情共鳴率。


 観測反応。


     ◇


 全部。


 一致していた。


     ◇


「……やっぱりだ」


     ◇


 セシルが、

 低く呟く。


「事件直前、

 運命律出力が急増してる」


     ◇


 ベアトリクスが、

 顔をしかめた。


「つまり、

 誘発してる?」


     ◇


 セシル、

 頷く。


     ◇


「悲劇ほど、

 観測反応が強い」


     ◇


 観測盤が、

 不気味に明滅する。


     ◇


「つまり」


 一拍。


     ◇


「世界、

 ウケる展開を選び始めてる」


     ◇


 沈黙。


     ◇


 誰も、

 すぐには言葉を返せなかった。


     ◇


 その空気の中。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 が、

 静かに目を伏せる。


     ◇


 怒っていた。


 叫びではない。


 冷たい怒り。


     ◇


「人命を、

 娯楽最適化していますの……?」


     ◇


 その瞬間。


 観測盤の上で。


 巨大魔法陣の波形が、

 わずかに強く脈動した。


 まるで。


 誰かが、

 その怒りすら楽しんでいるみたいに。

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