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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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165/250

Opening 「悲恋都市」

王都は、

 まだ傷だらけだった。


     ◇


 崩れた橋。


 修復途中の街路。


 仮設結界。


 夜通し動き続ける工事班。


 復旧は進んでいる。


 少しずつ。


 確かに。


     ◇


 だが。


 異常は終わっていなかった。


     ◇


 むしろ。


 今度は、

 別の方向へ進化し始めていた。


     ◇


 最初は小さな噂だった。


「最近、

 嫌な偶然が多くない?」


     ◇


 だが。


 数日後には、

 誰もが気づき始める。


     ◇


 王都中で。


 “悲恋イベント”

 が連続発生していた。


     ◇


 中央橋。


 復旧工事中。


 足場崩落。


 恋人同士が転落。


 片方だけ救助。


 川向こうへ、

 もう片方が流される。


     ◇


 病院区画。


 婚約発表直前。


 突然の魔力病診断。


 余命宣告。


 泣き崩れる婚約者。


     ◇


 港湾地区。


 軍部命令。


 急な戦地召集。


 出航前。


 抱き合う恋人たち。


 夕焼け。


 強風。


 飛び散る光花弁。


 異様なほど、

 絵になっている。


     ◇


 学園区画。


 記憶障害。


 好きだった相手だけ、

 思い出せない。


 涙。


 すれ違い。


 追いかける背中。


 完全に悲恋劇。


     ◇


 しかも。


 全部。


 異様に、

 “ドラマチック”だった。


     ◇


 偶然とは思えない。


 タイミング。


 構図。


 演出。


 空気。


 光。


 全部。


 美しすぎる。


     ◇


 そして。


 悲劇が起きるたび。


 空が脈動する。


     ◇


 王都上空。


 巨大魔法陣。


 幾重もの光輪。


 それが。


 悲鳴へ反応するように、

 発光していた。


     ◇


 観測出力上昇。


 空間共鳴増加。


 感情波形活性化。


 拍手音発生。


     ◇


 ぱち。


 ぱちぱち。


     ◇


 誰もいない空間から。


 また。


 拍手。


     ◇


 民衆ですら、

 顔色を変え始める。


「……最近、

 悲劇ばかりじゃないか?」


     ◇


 不安そうな声。


 だが。


 次の瞬間。


「でも……」


     ◇


 一拍。


     ◇


「続きが気になる」


     ◇


 最悪だった。


     ◇


 人々は、

 怯えている。


 なのに。


 同時に。


 物語を求めてしまう。


     ◇


 運命律は、

 そこを利用していた。


     ◇


 地下災害対策本部。


 巨大観測盤。


 術式波形。


 異常値の羅列。


     ◇


 セシル・アークライト

 が、

 青ざめた顔で画面を睨んでいる。


     ◇


「……まずいな」


     ◇


 レオノーラが、

 低く問う。


「何がですの?」


     ◇


 セシルは、

 乾いた声で答えた。


     ◇


「運命律」


「“悲劇ジャンル”へ移行してる」


     ◇


 沈黙。


     ◇


 その瞬間。


 観測盤が、

 また一度強く脈動した。


 まるで。


 世界そのものが。


 次の悲劇を、

 期待しているみたいに。

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