Opening 「悲恋都市」
王都は、
まだ傷だらけだった。
◇
崩れた橋。
修復途中の街路。
仮設結界。
夜通し動き続ける工事班。
復旧は進んでいる。
少しずつ。
確かに。
◇
だが。
異常は終わっていなかった。
◇
むしろ。
今度は、
別の方向へ進化し始めていた。
◇
最初は小さな噂だった。
「最近、
嫌な偶然が多くない?」
◇
だが。
数日後には、
誰もが気づき始める。
◇
王都中で。
“悲恋イベント”
が連続発生していた。
◇
中央橋。
復旧工事中。
足場崩落。
恋人同士が転落。
片方だけ救助。
川向こうへ、
もう片方が流される。
◇
病院区画。
婚約発表直前。
突然の魔力病診断。
余命宣告。
泣き崩れる婚約者。
◇
港湾地区。
軍部命令。
急な戦地召集。
出航前。
抱き合う恋人たち。
夕焼け。
強風。
飛び散る光花弁。
異様なほど、
絵になっている。
◇
学園区画。
記憶障害。
好きだった相手だけ、
思い出せない。
涙。
すれ違い。
追いかける背中。
完全に悲恋劇。
◇
しかも。
全部。
異様に、
“ドラマチック”だった。
◇
偶然とは思えない。
タイミング。
構図。
演出。
空気。
光。
全部。
美しすぎる。
◇
そして。
悲劇が起きるたび。
空が脈動する。
◇
王都上空。
巨大魔法陣。
幾重もの光輪。
それが。
悲鳴へ反応するように、
発光していた。
◇
観測出力上昇。
空間共鳴増加。
感情波形活性化。
拍手音発生。
◇
ぱち。
ぱちぱち。
◇
誰もいない空間から。
また。
拍手。
◇
民衆ですら、
顔色を変え始める。
「……最近、
悲劇ばかりじゃないか?」
◇
不安そうな声。
だが。
次の瞬間。
「でも……」
◇
一拍。
◇
「続きが気になる」
◇
最悪だった。
◇
人々は、
怯えている。
なのに。
同時に。
物語を求めてしまう。
◇
運命律は、
そこを利用していた。
◇
地下災害対策本部。
巨大観測盤。
術式波形。
異常値の羅列。
◇
セシル・アークライト
が、
青ざめた顔で画面を睨んでいる。
◇
「……まずいな」
◇
レオノーラが、
低く問う。
「何がですの?」
◇
セシルは、
乾いた声で答えた。
◇
「運命律」
「“悲劇ジャンル”へ移行してる」
◇
沈黙。
◇
その瞬間。
観測盤が、
また一度強く脈動した。
まるで。
世界そのものが。
次の悲劇を、
期待しているみたいに。




