ラストシーン 「美しさ」
王国中央劇場。
その屋上。
◇
夜風が強い。
復旧途中の王都を、
冷たい風が吹き抜けていく。
崩れた建物。
修復中の橋。
仮設結界の光。
傷だらけの都市。
◇
だが。
空だけは、
異様だった。
◇
巨大魔法陣。
幾重にも重なる光輪。
夜空を埋め尽くす、
円形劇場のような構造。
脈動している。
まるで。
生き物みたいに。
◇
その下で。
ルフレ・ノクス
は、
静かに空を見上げていた。
隣には。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
。
二人きり。
◇
しばらく、
沈黙。
やがて。
ルフレが、
穏やかに口を開く。
◇
「あなた方は、
人間を自由にしたい」
◇
レオノーラは答えない。
ただ、
睨む。
◇
ルフレは続ける。
「ですが」
「自由なだけの人生は」
一拍。
「醜く」
「散漫で」
「意味がない」
◇
その声に。
悪意はなかった。
本当に。
本気でそう信じている声だった。
◇
レオノーラの目が、
冷たく細まる。
「人間は、
物語のために生きているわけではありませんわ」
◇
夜風。
魔法陣の光。
遠くで、
工事音が小さく響く。
◇
ルフレは、
怒らなかった。
否定もしない。
ただ。
少しだけ、
寂しそうに笑った。
◇
そして。
静かに言う。
◇
「私は――」
◇
一拍。
◇
「人間を、
美しくしたい」
◇
その瞬間。
空が脈動した。
◇
巨大魔法陣。
光輪が一斉に発光。
王都上空、
全体が震える。
まるで。
歓喜。
◇
世界そのものが。
彼の思想へ、
拍手しているみたいに。
◇
ぞわり、と。
レオノーラの背筋へ、
寒気が走る。
◇
理解する。
この男は、
ただの思想家ではない。
世界法則に、
愛されている。
◇
ルフレは、
空を見上げたまま微笑む。
その横顔は、
あまりにも穏やかで。
だからこそ。
どうしようもなく、
恐ろしかった。




