シーン4 「観客のための王国」
王宮上層区画。
円卓会議室。
重厚な扉。
豪奢な絨毯。
歴代王たちの肖像画。
国家中枢そのものの空間。
◇
その部屋に。
ルフレ・ノクス
は、
あまりにも自然に座っていた。
まるで。
最初から、
ここにいるべき人間みたいに。
◇
レオノーラは、
静かに目を細める。
理解する。
この男。
単なる演出家ではない。
◇
王宮上層部。
貴族院。
文化庁。
儀礼機構。
王国中枢。
そこへ、
深く食い込んでいる。
◇
つまり。
“物語維持派”
の代弁者。
◇
ルフレは、
窓の外を見つめていた。
復旧中の王都。
崩れた街。
それでも人々は動いている。
恋をし。
語り。
笑い。
泣く。
◇
彼は、
穏やかに言った。
「人間は、
美しい物語を求める」
◇
静かな声。
説教ではない。
確信。
◇
「だから文明は、
演劇を生み」
「恋愛を讃え」
「英雄を必要とした」
◇
一歩。
窓際から離れる。
「運命律は、
その究極形です」
◇
ぞくり、と。
空気が震える。
まるで。
世界そのものが、
彼の言葉へ同意しているみたいに。
◇
セシルが、
低く吐き捨てた。
「究極の迷惑装置だろ」
◇
だが。
ルフレは怒らない。
むしろ。
少し悲しそうに笑った。
「あなたは、
感情を軽視しすぎる」
「人は、
ただ生きるだけでは耐えられない」
「意味が必要なんです」
◇
レオノーラが、
真っ直ぐ彼を見る。
「それは自由ではありませんわ」
◇
一瞬。
沈黙。
◇
ルフレは、
静かに首を傾げた。
「自由?」
小さく笑う。
「自由なだけの人生に、
観客は感動しません」
◇
怖い。
その言葉には、
一切の迷いがなかった。
◇
幸福。
偶然。
平穏。
矛盾のない人生。
それだけでは、
“物語”にならない。
だから。
悲劇が必要。
苦悩が必要。
喪失が必要。
◇
ルフレは、
本気でそう信じている。
◇
レオノーラは、
ようやく理解した。
この男。
人間を憎んでいるわけではない。
むしろ逆。
◇
愛している。
◇
ただし。
“美しく苦しむ人間”
を。
◇
舞台の上で。
涙を流し。
絶望し。
それでも愛を叫ぶ。
そんな存在として。
◇
だから危険だった。
悪意だけなら、
まだ単純だ。
だが。
善意と美学で、
人を壊す者は止めづらい。
◇
ルフレは、
穏やかに微笑む。
「人は、
感動の中でこそ、
最も人間らしい」
◇
その瞬間。
会議室上空の魔法灯が、
淡く揺れた。
まるで。
世界が、
拍手しているみたいに。




