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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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163/250

シーン4 「観客のための王国」

王宮上層区画。


 円卓会議室。


 重厚な扉。


 豪奢な絨毯。


 歴代王たちの肖像画。


 国家中枢そのものの空間。


     ◇


 その部屋に。


 ルフレ・ノクス

 は、

 あまりにも自然に座っていた。


 まるで。


 最初から、

 ここにいるべき人間みたいに。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに目を細める。


 理解する。


 この男。


 単なる演出家ではない。


     ◇


 王宮上層部。


 貴族院。


 文化庁。


 儀礼機構。


 王国中枢。


 そこへ、

 深く食い込んでいる。


     ◇


 つまり。


 “物語維持派”

 の代弁者。


     ◇


 ルフレは、

 窓の外を見つめていた。


 復旧中の王都。


 崩れた街。


 それでも人々は動いている。


 恋をし。


 語り。


 笑い。


 泣く。


     ◇


 彼は、

 穏やかに言った。


「人間は、

 美しい物語を求める」


     ◇


 静かな声。


 説教ではない。


 確信。


     ◇


「だから文明は、

 演劇を生み」


「恋愛を讃え」


「英雄を必要とした」


     ◇


 一歩。


 窓際から離れる。


「運命律は、

 その究極形です」


     ◇


 ぞくり、と。


 空気が震える。


 まるで。


 世界そのものが、

 彼の言葉へ同意しているみたいに。


     ◇


 セシルが、

 低く吐き捨てた。


「究極の迷惑装置だろ」


     ◇


 だが。


 ルフレは怒らない。


 むしろ。


 少し悲しそうに笑った。


「あなたは、

 感情を軽視しすぎる」


「人は、

 ただ生きるだけでは耐えられない」


「意味が必要なんです」


     ◇


 レオノーラが、

 真っ直ぐ彼を見る。


「それは自由ではありませんわ」


     ◇


 一瞬。


 沈黙。


     ◇


 ルフレは、

 静かに首を傾げた。


「自由?」


 小さく笑う。


「自由なだけの人生に、

 観客は感動しません」


     ◇


 怖い。


 その言葉には、

 一切の迷いがなかった。


     ◇


 幸福。


 偶然。


 平穏。


 矛盾のない人生。


 それだけでは、

 “物語”にならない。


 だから。


 悲劇が必要。


 苦悩が必要。


 喪失が必要。


     ◇


 ルフレは、

 本気でそう信じている。


     ◇


 レオノーラは、

 ようやく理解した。


 この男。


 人間を憎んでいるわけではない。


 むしろ逆。


     ◇


 愛している。


     ◇


 ただし。


 “美しく苦しむ人間”

 を。


     ◇


 舞台の上で。


 涙を流し。


 絶望し。


 それでも愛を叫ぶ。


 そんな存在として。


     ◇


 だから危険だった。


 悪意だけなら、

 まだ単純だ。


 だが。


 善意と美学で、

 人を壊す者は止めづらい。


     ◇


 ルフレは、

 穏やかに微笑む。


「人は、

 感動の中でこそ、

 最も人間らしい」


     ◇


 その瞬間。


 会議室上空の魔法灯が、

 淡く揺れた。


 まるで。


 世界が、

 拍手しているみたいに。

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