シーン3 「世界維持派」
王城地下。
禁書庫。
王族許可なしでは、
立ち入りすら許されない最深部。
◇
分厚い封印扉が、
重い音を立てて開く。
空気は冷たい。
古い紙と、
魔術薬品の匂い。
棚一面に並ぶ、
閲覧禁止級の国家記録。
◇
その中央で。
ベアトリクス・ギアハート
は、
完全に目が据わっていた。
「嫌ですねえ」
資料をめくる。
「禁書庫って、
だいたい最悪の答えしか入ってないんですよ」
◇
セシルが、
乾いた声で返す。
「今回も当たりだったな」
◇
机の上。
山積みの古文書。
王家機密。
国家施策記録。
儀礼制度変遷。
そして。
“感情共鳴政策”。
◇
レオノーラは、
眉をひそめた。
「……名前からして嫌ですわね」
◇
ベアトリクスは、
疲れた顔で眼鏡を押し上げる。
「もっと嫌なのは中身です」
◇
彼女は、
一冊の古文書を開いた。
王家極秘議事録。
数百年前。
運命律発生初期。
そこに、
はっきり書かれていた。
◇
【恋愛共鳴現象、
国家繁栄へ極めて有効】
◇
沈黙。
◇
アルベルトの顔色が変わる。
「……は?」
◇
ベアトリクスは、
次々資料を広げていく。
「運命律発生後、
王国は急成長しています」
「芸術」
「文化」
「経済」
「出生率」
「観光」
「国際影響力」
「全部、
異常な伸び率です」
◇
さらに。
別資料。
【感動体験共有による、
国家結束率向上】
【恋愛演出区域における、
観光収益増加】
【英雄的人材の人気集中による、
外交優位性確立】
◇
レオノーラが、
静かに理解していく。
「……成功していたんですのね」
◇
ベアトリクス、
頷く。
「ええ」
「この国」
「“物語国家”として、
大成功してます」
◇
最悪だった。
王国は。
偶然ではなく。
繁栄していた。
運命律によって。
◇
セシルが、
低く呟く。
「だから、
誰も止めなかったのか」
◇
さらに。
ベアトリクスが、
別資料を開く。
そこには。
歴代王族の政策記録。
◇
【舞踏会文化拡張計画】
【学園交流制度強化】
【感情共鳴適性者育成】
【高魅力人材集中政策】
◇
アルベルトの喉が、
引きつる。
「……なんだ、
これ」
◇
ベアトリクスは、
容赦なく告げた。
「恋愛イベント支援政策です」
◇
空気が凍る。
◇
「舞踏会文化」
「学園制度」
「攻略対象候補の英才教育」
「人気貴族優遇」
「英雄演出」
「全部、
国家主導です」
◇
つまり。
王国そのものが。
“魅力的キャラクター”
を作る方向へ進化していた。
文明単位で。
◇
ベアトリクスは、
資料を閉じる。
そして。
吐き捨てるように言った。
「国家ぐるみで、
視聴率稼いでたんですね」
◇
最低だった。
◇
アルベルトが、
立ち尽くす。
顔色が悪い。
王子として。
初めて知った。
◇
自分たちは。
国を守っていたのではない。
◇
“舞台維持”
していた可能性。
◇
幼少期からの、
英雄教育。
劇的演説。
剣術大会。
民衆人気。
全部。
“王子キャラ”
育成だったのか。
◇
アルベルトの声が、
かすれる。
「じゃあ俺は……」
「何だったんだ……?」
◇
誰も、
すぐには答えられなかった。
◇
静かな禁書庫。
古文書だけが、
無慈悲に真実を並べている。
◇
国家。
文化。
教育。
芸術。
その全部が。
人間の幸福ではなく。
“盛り上がる物語”
のために最適化されていた。




