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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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162/250

シーン3 「世界維持派」

 王城地下。


 禁書庫。


 王族許可なしでは、

 立ち入りすら許されない最深部。


     ◇


 分厚い封印扉が、

 重い音を立てて開く。


 空気は冷たい。


 古い紙と、

 魔術薬品の匂い。


 棚一面に並ぶ、

 閲覧禁止級の国家記録。


     ◇


 その中央で。


 ベアトリクス・ギアハート

 は、

 完全に目が据わっていた。


「嫌ですねえ」


 資料をめくる。


「禁書庫って、

 だいたい最悪の答えしか入ってないんですよ」


     ◇


 セシルが、

 乾いた声で返す。


「今回も当たりだったな」


     ◇


 机の上。


 山積みの古文書。


 王家機密。


 国家施策記録。


 儀礼制度変遷。


 そして。


 “感情共鳴政策”。


     ◇


 レオノーラは、

 眉をひそめた。


「……名前からして嫌ですわね」


     ◇


 ベアトリクスは、

 疲れた顔で眼鏡を押し上げる。


「もっと嫌なのは中身です」


     ◇


 彼女は、

 一冊の古文書を開いた。


 王家極秘議事録。


 数百年前。


 運命律発生初期。


 そこに、

 はっきり書かれていた。


     ◇


【恋愛共鳴現象、

 国家繁栄へ極めて有効】


     ◇


 沈黙。


     ◇


 アルベルトの顔色が変わる。


「……は?」


     ◇


 ベアトリクスは、

 次々資料を広げていく。


「運命律発生後、

 王国は急成長しています」


「芸術」


「文化」


「経済」


「出生率」


「観光」


「国際影響力」


「全部、

 異常な伸び率です」


     ◇


 さらに。


 別資料。


【感動体験共有による、

 国家結束率向上】


【恋愛演出区域における、

 観光収益増加】


【英雄的人材の人気集中による、

 外交優位性確立】


     ◇


 レオノーラが、

 静かに理解していく。


「……成功していたんですのね」


     ◇


 ベアトリクス、

 頷く。


「ええ」


「この国」


「“物語国家”として、

 大成功してます」


     ◇


 最悪だった。


 王国は。


 偶然ではなく。


 繁栄していた。


 運命律によって。


     ◇


 セシルが、

 低く呟く。


「だから、

 誰も止めなかったのか」


     ◇


 さらに。


 ベアトリクスが、

 別資料を開く。


 そこには。


 歴代王族の政策記録。


     ◇


【舞踏会文化拡張計画】


【学園交流制度強化】


【感情共鳴適性者育成】


【高魅力人材集中政策】


     ◇


 アルベルトの喉が、

 引きつる。


「……なんだ、

 これ」


     ◇


 ベアトリクスは、

 容赦なく告げた。


「恋愛イベント支援政策です」


     ◇


 空気が凍る。


     ◇


「舞踏会文化」


「学園制度」


「攻略対象候補の英才教育」


「人気貴族優遇」


「英雄演出」


「全部、

 国家主導です」


     ◇


 つまり。


 王国そのものが。


 “魅力的キャラクター”

 を作る方向へ進化していた。


 文明単位で。


     ◇


 ベアトリクスは、

 資料を閉じる。


 そして。


 吐き捨てるように言った。


「国家ぐるみで、

 視聴率稼いでたんですね」


     ◇


 最低だった。


     ◇


 アルベルトが、

 立ち尽くす。


 顔色が悪い。


 王子として。


 初めて知った。


     ◇


 自分たちは。


 国を守っていたのではない。


     ◇


 “舞台維持”

 していた可能性。


     ◇


 幼少期からの、

 英雄教育。


 劇的演説。


 剣術大会。


 民衆人気。


 全部。


 “王子キャラ”

 育成だったのか。


     ◇


 アルベルトの声が、

 かすれる。


「じゃあ俺は……」


「何だったんだ……?」


     ◇


 誰も、

 すぐには答えられなかった。


     ◇


 静かな禁書庫。


 古文書だけが、

 無慈悲に真実を並べている。


     ◇


 国家。


 文化。


 教育。


 芸術。


 その全部が。


 人間の幸福ではなく。


 “盛り上がる物語”

 のために最適化されていた。

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