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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン1 「初対面」

巨大劇場。


 無人の客席。


 暗い舞台。


 そこへ、

 柔らかな拍手だけが響いていた。


 ぱち。


 ぱち。


     ◇


 ルフレ・ノクス

 は、

 舞台中央で静かに笑っていた。


 穏やか。


 上品。


 知的。


 完璧だった。


 だからこそ。


 異常さが際立つ。


     ◇


 彼は、

 ゆっくりと

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 を見る。


 まるで。


 興味深い演者を見るみたいに。


     ◇


「あなた」


 優しい声音。


 責める響きすらない。


「舞台を壊そうとしてますね?」


     ◇


 ぞわり、と。


 空気が冷えた。


 ただの一言。


 だが。


 威圧感が異常だった。


 まるで。


 “世界そのもの”が、

 背後に立っているみたいな。


     ◇


 レオノーラは、

 目を細める。


「国家崩壊を、

 舞台と呼ぶ趣味はありませんの」


 即答。


 だが。


 ルフレは怒らない。


 むしろ。


 楽しそうに笑った。


     ◇


「ああ、

 ですが」


 彼は、

 空席の観客たちへ語りかけるように、

 両手を広げる。


「皆さん感動していた」


「泣き」


「叫び」


「祈り」


「愛した」


 静かな熱。


「素晴らしい物語だったでしょう?」


     ◇


 セシルが、

 露骨に顔をしかめた。


「……都市災害だぞ」


 低い声。


 嫌悪を隠さない。


     ◇


 だが。


 ルフレは、

 本当に不思議そうに首を傾げる。


「災害にも、

 美しさはあります」


     ◇


 その瞬間。


 ベアトリクスが、

 小さく息を呑んだ。


 危険だ。


 この男。


 価値観の根本が、

 決定的に違う。


     ◇


 ルフレは、

 舞台袖へ歩きながら続ける。


「人は、

 極限で最も美しくなる」


「喪失」


「絶望」


「犠牲」


「そして再生」


「観客は、

 そこへ心を動かされる」


     ◇


 観客。


 その単語を、

 彼はあまりにも自然に使った。


 まるで。


 “いる”ことが当然みたいに。


     ◇


 レオノーラの視線が鋭くなる。


「あなた」


「運命律を知っていますのね」


     ◇


 普通なら。


 恐怖する。


 否定する。


 狂気だと叫ぶ。


 だが。


 ルフレは違った。


     ◇


「ええ」


 あっさり認める。


「もちろん」


「空の劇場」


「観測領域」


「感情共鳴」


「視線増幅」


「全部、

 理解しています」


     ◇


 セシルの目が細くなる。


「……理解した上で、

 肯定してるのか」


     ◇


 ルフレは、

 微笑んだままだった。


「なぜ否定する必要が?」


「これほど壮大な物語装置を」


     ◇


 寒気。


 レオノーラは、

 本能的に理解する。


 この男。


 真実を知った上で、

 なお受け入れている。


 いや。


 違う。


 受け入れているどころではない。


     ◇


 加担している。


     ◇


 ルフレは、

 ゆっくり客席を見渡す。


 無人のはずの空間。


 だが彼には。


 本当に“観客”が見えているみたいだった。


     ◇


「人生は、

 誰にも見られなければ、

 ただ消えるだけです」


「ですが」


「物語になれば、

 永遠になる」


     ◇


 ぞくり、と。


 劇場全体が、

 微かに脈動した。


 天井の巨大魔法陣が、

 淡く明滅する。


 まるで。


 彼の言葉へ、

 共鳴するみたいに。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに息を吐いた。


 確信する。


 この男は。


 世界法則側だ。


 人間ではなく。


 “物語”の側へ立っている。

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