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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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ラストシーン 「拍手喝采」

深夜。


 王都。


 復旧途中の街は、

 異様な静けさに包まれていた。


 崩れた石壁。


 仮設結界。


 消えた街灯。


 夜風だけが、

 瓦礫の隙間を吹き抜けていく。


 人々は、

 早く家へ戻るようになっていた。


 もう、

 誰も夜を信じていない。


     ◇


 中央広場。


 昼間なら、

 露店と人波で埋まる場所。


 だが今は、

 誰もいない。


 月明かりだけ。


 静寂だけ。


     ◇


 その時だった。


 ぱち。


 小さな音。


 まるで、

 誰かが拍手したみたいな。


     ◇


 広場にいた警備兵が、

 顔を上げる。


「……は?」


 周囲には誰もいない。


 風だけ。


 だが。


 また鳴る。


 ぱち。


 ぱちぱち。


     ◇


 音が、

 増えていく。


 ぱちぱち。


 ぱちぱちぱち。


 ぱちぱちぱちぱちぱち。


     ◇


 拍手だった。


 間違いなく。


 無数の手。


 大量の歓声。


 見えない観客。


     ◇


 しかも。


 音の発生源が、

 わからない。


 前でも。


 後ろでもない。


 空。


 夜空全体から、

 拍手が降ってきていた。


     ◇


 王都中で、

 悲鳴が上がる。


「やめろ……」


「誰だよ……!」


「聞こえる……!」


 窓が閉まる。


 扉が閉まる。


 母親が、

 子供を抱き締める。


 犬が狂ったように吠える。


 赤子が泣く。


     ◇


 だが。


 拍手は止まらない。


 むしろ。


 盛り上がる。


     ◇


 ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち――


     ◇


 歓声みたいだった。


 何か素晴らしい舞台を見た後の。


 感動した観客たちの。


 熱狂。


     ◇


 高台。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は、

 一人で空を見上げていた。


 夜空。


 巨大魔法陣。


 幾重にも重なる光輪。


 脈動する円形構造。


 その向こう側。


 何も見えない。


 星しかない。


 ……なのに。


 確かに感じる。


 視線。


 無数の。


 こちらを見下ろす、

 巨大な“観客席”。


     ◇


 拍手は、

 まだ続いていた。


 まるで。


 物語が、

 佳境へ入ったことを喜ぶみたいに。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに目を細める。


 恐怖より先に、

 怒りがあった。


 人間の人生を。


 涙を。


 苦しみを。


 娯楽として消費する存在への、

 怒り。


     ◇


 夜風が吹く。


 巨大魔法陣が、

 どくりと脈動した。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに呟く。


「この世界――」


 一拍。


「ついに観客の存在を、

 隠さなくなりましたのね……」

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