シーン4 「ベアトリクス激怒」
地下観測室。
警報音が、
まだ鳴っていた。
赤い非常灯。
崩れた観測棚。
床へ散乱した術式紙片。
つい数分前まで、
ここは研究施設だった。
だが今は。
半分、
災害現場だった。
◇
「第三区画封鎖!」
「負傷者搬送急げ!」
「観測盤冷却止まりません!」
怒号。
悲鳴。
焦げ臭い空気。
崩落した天井の近くでは、
研究員たちが必死に瓦礫を退かしている。
運命律反発。
その余波だけで、
地下観測室は半壊しかけていた。
◇
そして。
担架が、
一つ運ばれていく。
若い研究員。
額から血を流し、
意識がない。
直撃していれば、
死んでいた。
◇
その光景を見た瞬間。
ベアトリクス・ギアハート
の表情から、
完全に余裕が消えた。
いつもの皮肉も。
乾いた笑いも。
全部、
消える。
◇
彼女は、
ゆっくり術式盤の前へ歩く。
巨大観測盤。
脈動する魔法陣。
空間の向こう。
観測領域。
その全てを睨みつける。
◇
「……ふざけないでください」
低い声。
だが。
次の瞬間。
彼女は、
ついに怒鳴った。
◇
「何が物語ですか!!」
観測室が震える。
研究員たちが、
一斉に振り返る。
ベアトリクスは、
術式盤を指差した。
「人命を!」
「脚本都合で消費するな!!」
「盛り上がりのために怪我をさせて!」
「悲劇演出のために死にかけさせて!」
「そんなものを、
世界法則と呼ぶな!!」
◇
沈黙。
誰も、
声を出せない。
今まで。
どこかで、
彼女たちは研究者だった。
異常を解析し。
構造を観測し。
法則を調べる。
まだ、
“学問”の側にいた。
だが。
違う。
もう、
そんな段階ではない。
◇
これは。
人間を、
物語の部品として消費する法則。
人格を。
人生を。
苦しみを。
娯楽へ変換するシステム。
◇
つまり。
敵だった。
◇
ベアトリクスは、
荒く息を吐く。
「観測じゃない……」
「こんなの……」
一拍。
「災害ですらない」
その目に、
初めて明確な敵意が宿る。
「倫理崩壊です」
◇
静かな声が、
後ろから返る。
「ようこそ」
セシル・アークライト
だった。
壁へ寄りかかりながら、
疲れた顔で笑っている。
「反逆側へ」
皮肉っぽい声。
だが。
そこにある感情は、
本物だった。
◇
ベアトリクスは、
一瞬だけ目を閉じる。
そして。
静かに術式盤へ向き直る。
観測領域。
拍手。
巨大魔法陣。
“観客たち”。
その全部を睨みながら。
彼女は、
低く呟いた。
「……だったら」
「解析して、
壊してやりますよ」
その瞬間。
巨大魔法陣が、
僅かに脈動した。
まるで。
敵意を、
認識したみたいに。




