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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン3 「初の敵意」

翌日。


 王都西部区画。


 復旧途中の街路で、

 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は、

 静かに前を見上げていた。


 夕暮れ。


 空気が、

 妙に甘い。


 そして。


 通りの先では、

 また恋愛イベントが始まりかけていた。


     ◇


 偶然。


 それらしく見える偶然。


 荷物を落とした少女。


 駆け寄る青年。


 夕日。


 風。


 花弁。


 完璧すぎる配置。


 まるで、

 舞台演出。


     ◇


 だが。


 レオノーラは、

 もう騙されない。


「遮断してくださいまし」


 冷静な声。


 護衛術師たちが、

 即座に結界を展開する。


 花弁演出遮断。


 空間共鳴抑制。


 強制照明停止。


 群衆導線分散。


 さらには。


 “偶然衝突導線”

 そのものを封鎖。


     ◇


 空気が、

 変わった。


 今まで自然だった演出が、

 急に噛み合わなくなる。


 風が止む。


 光粒子が消える。


 夕日補正が乱れる。


 青年と少女も、

 困惑したように距離を取った。


「……あれ?」


「なんか、

 急に雰囲気が……」


 イベント失敗。


 物語進行阻害。


     ◇


 その瞬間だった。


 空気が、

 軋んだ。


     ◇


 ――バキン!!


 頭上。


 街路照明が、

 突然崩落した。


「危険ですわ!」


 護衛がレオノーラを引く。


 直後。


 巨大な魔導灯が、

 さっきまで彼女が立っていた場所へ激突した。


 轟音。


 石畳が砕ける。


 群衆悲鳴。


     ◇


「偶然……?」


 誰かが呟く。


 だが。


 レオノーラは、

 理解していた。


 違う。


 これは。


 “修正”だ。


     ◇


 さらに。


 通路奥で、

 避難誘導用の階段が崩壊する。


 逃げ道封鎖。


 人流集中。


 群衆同士が、

 不自然にぶつかり始める。


「あっ!」


「きゃっ!?」


 偶然接触。


 強制接近。


 完全に、

 イベント生成。


     ◇


 セシルの警告が飛ぶ。


「レオノーラ!

 下がれ!」


 直後。


 石造階段が、

 轟音と共に崩れた。


     ◇


 床が消える。


 身体が傾く。


 一瞬。


 落下感覚。


 だが。


 レオノーラは、

 咄嗟に浮遊術式を展開した。


 空中停止。


 瓦礫が、

 真下を通過していく。


     ◇


 その光景を見ながら。


 彼女は、

 静かに息を呑む。


 全部。


 全部、

 都合が良すぎる。


 事故に見える。


 自然災害に見える。


 だが。


 タイミングが、

 完璧すぎた。


     ◇


 物語の邪魔者を。


 脚本進行の障害を。


 世界そのものが、

 自然に排除しようとしている。


     ◇


 その時。


 空が、

 脈動した。


 王都上空。


 巨大魔法陣。


 幾重もの光輪が、

 ゆっくり明滅する。


 どくん。


 どくん。


 まるで。


 怒っている心臓みたいに。


     ◇


 レオノーラは、

 瓦礫の縁へ着地する。


 その背後で、

 人々がざわめいていた。


「また演出?」


「すご……」


「リアルすぎる……」


 まだ、

 そう見えている。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに空を見上げた。


 巨大魔法陣。


 その中心部。


 そこだけ。


 妙に暗い。


 まるで。


 巨大な“瞳”が、

 こちらを睨んでいるみたいだった。

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