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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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第十五話 『観客たち』 Opening「拍手」

夜の王都は、

 まだ傷だらけだった。


 崩落した橋には、

 仮設の光路が渡されている。


 止まっていた魔導列車も、

 一部だけ運行再開。


 街灯は半分しか戻っていない。


 結界塔も、

 応急修復のまま。


 それでも。


 人々は、

 少しずつ日常を取り戻そうとしていた。


 パン屋が開く。


 露店が並ぶ。


 子供が笑う。


 疲れ切った顔で、

 それでも生活を続けている。


 まるで。


 崩壊なんて、

 なかったことにしたいみたいに。


     ◇


 その時だった。


 ぱち。


 小さな音。


 通りを歩いていた人々が、

 同時に足を止める。


「……え?」


 ぱちぱち。


 拍手。


 誰かが、

 手を叩いている。


 だが。


 周囲に、

 そんな人間はいない。


     ◇


 中央区画の噴水広場。


 一組の男女が、

 偶然ぶつかる。


「あっ、

 すみません!」


「い、いえこちらこそ!」


 荷物が落ちる。


 手が触れる。


 顔が近づく。


 どこにでもある、

 恋愛劇みたいな光景。


 その瞬間。


 ぱちぱちぱち。


 空間から、

 拍手が響いた。


 今度は、

 はっきり聞こえた。


     ◇


 周囲の人々が、

 一斉に振り返る。


「……今の何?」


「誰かいた?」


「え、

 聞こえたよな?」


 だが。


 誰もいない。


 建物の屋上にも。


 路地裏にも。


 広場にも。


 拍手している人間は、

 一人も存在しなかった。


     ◇


 それなのに。


 拍手だけが、

 空間から鳴る。


 ぱち。


 ぱちぱち。


 まるで。


 舞台を見て、

 喜んでいる観客みたいに。


     ◇


 異常は、

 その夜だけで終わらなかった。


 王都各地。


 恋愛イベント発生直後にだけ、

 拍手音が響く。


 学園通路。


 偶然の再会。


 → 拍手。


 夕景広場。


 感動的な会話。


 → 拍手。


 時計塔前。


 告白未遂。


 → 拍手。


 完全に。


 “反応”

 していた。


     ◇


 人々は、

 次第に不安を覚え始める。


「誰が拍手してるんだ?」


「……見えないよな?」


「やめろよ、

 気味悪い……」


 だが。


 一部の民衆は、

 まだ笑っていた。


「新しい演出じゃない?」


「王都、

 最近凝ってるなぁ」


 認識が壊れている。


     ◇


 そして。


 地下観測室。


 巨大術式盤の前で、

 セシル・アークライト

 が、

 無言で波形を見つめていた。


 術式盤には、

 不可解な共鳴反応が映っている。


 王都内部ではない。


 もっと外側。


 観測領域。


 そこから。


 “反応”

 が返ってきていた。


 拍手のタイミングと、

 完全一致で。


     ◇


 セシルは、

 疲れ切った顔で目を伏せる。


 そして。


 低く呟いた。


「……観客、

 静かじゃなくなってきたな」

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