シーン4 「レオノーラの反論」
観測室の空間が、
不気味に脈動していた。
光粒子。
花弁。
共鳴音。
まるで。
世界そのものが、
ミレイユの絶望を、
“盛り上がる展開”
として消費しようとしているみたいだった。
最低だった。
◇
ミレイユ・フェルナン
は、
その場へ崩れ落ちる。
肩が震えている。
涙が止まらない。
「全部偽物なら……」
掠れた声。
「わたし、
何なんですか……」
誰も、
すぐには答えられなかった。
セシルも。
ベアトリクスも。
言葉を失っていた。
だって。
それは、
あまりにも根本的な問いだったから。
もし。
感情が誘導なら。
人生が脚本なら。
人間は、
何を信じればいい。
◇
空間が、
どくん、と脈動する。
世界が。
この絶望を、
物語として完成させたがっている。
悲劇のヒロイン。
涙。
崩壊。
観客が好みそうな展開。
その気配が、
空気そのものから滲んでいた。
だが。
その時。
レオノーラが、
一歩前へ出る。
静かに。
迷いなく。
彼女は、
泣き崩れるミレイユの前へ膝をついた。
◇
そして。
断定する。
「誘導された感情でも、
苦しかったなら本物ですわ」
空間が、
一瞬止まる。
ミレイユが、
涙で濡れた目を上げた。
レオノーラは、
真っ直ぐ彼女を見る。
世界ではなく。
観測領域でもなく。
ただ、
一人の少女として。
◇
「涙が偽物だった人間など、
存在しません」
静かな声だった。
けれど。
その言葉だけは。
世界の脈動より、
ずっと強かった。
レオノーラは続ける。
「誰かを大切に思った苦しみも」
「失いたくなかった恐怖も」
「全部、
貴女自身のものです」
ミレイユの呼吸が、
少し止まる。
◇
観測室は静まり返っていた。
誰も動かない。
術式盤の光だけが、
静かに明滅している。
レオノーラの言葉は。
運命律そのものへの、
反論だった。
たとえ。
世界が作られていても。
感情が誘導されていても。
痛みは本物だ。
苦しかったなら。
泣いたなら。
失いたくなかったなら。
それは、
誰にも奪えない。
人間自身のものだ。
◇
“作られた世界”
でも。
“感情の痛み”
は本物。
だから。
人間は、
キャラクターでは終わらない。
◇
ミレイユの肩の震えが、
少しずつ弱くなる。
涙はまだ止まらない。
でも。
さっきまでとは違った。
崩壊ではない。
ただ。
誰かの言葉へ、
救われた涙だった。
「……っ」
声にならない嗚咽。
レオノーラは、
何も急かさない。
ただ、
そこにいる。
それだけだった。
◇
そして。
不気味に脈動していた空間魔力が。
ほんの少しだけ。
静かになった。




