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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン1 「不自然な人生」

地下観測室。


 巨大術式盤の上で、

 人生ログが次々展開されていく。


 青白い光。


 年表。


 感情波形。


 因果集中率。


 その光景は、

 もう研究というより。


 解剖だった。


 人生の。


     ◇


「次、

 アルベルト行きます」


 ベアトリクス・ギアハート

 が、

 無造作に術式盤を操作する。


 すると。


 アルベルト

 の人生ログが、

 空中へ投影された。


 幼少期。


 王城。


 剣術訓練。


 式典。


 学園入学。


 その全てへ。


 赤い印が大量に浮かぶ。


 イベント発生点。


 異常な密度だった。


「……多いですわね」


 レオノーラが、

 静かに呟く。


 ベアトリクスは、

 乾いた声で答える。


「多いどころじゃないです」


 術式盤が、

 自動分類を始める。


 民衆救助イベント。


 剣術大会優勝。


 劇的演説。


 運命的邂逅。


 英雄的成功。


 どれも。


 綺麗すぎた。


 失敗が少ない。


 タイミングが良すぎる。


 観客受けが良すぎる。


 まるで。


 “理想の王子”

 を育成するみたいに。


 セシルが、

 投影を見ながら言う。


「盛りすぎだろ」


「人生にしては、

 出来すぎてる」


 しかも。


 全部。


 見栄えがいい。


 救助される子供の位置。


 夕日の角度。


 演説時の風。


 歓声の発生率。


 異常なほど、

 演出的だった。


 レオノーラは、

 静かに理解する。


 アルベルトは。


 王子として育ったのではない。


 “王子キャラ”

 として調整されていた。


     ◇


「次、

 ガイウス」


 術式盤切替。


 ガイウス

 の人生ログが展開される。


 瞬間。


 観測室の空気が、

 少し変わった。


 赤い。


 とにかく赤い。


 決闘。


 抗争。


 対立。


 戦闘。


 衝突。


 因縁。


 人生の重要局面が、

 全部、

 火薬臭い。


「うわ……」


 クラリスが、

 引いた声を出す。


 ガイウスは、

 無言で投影を見上げていた。


 その横顔が、

 少しだけ硬い。


 ベアトリクスが、

 解析結果を読み上げる。


「対立イベント発生率、

 一般平均の十八倍」


「偶発決闘遭遇率、

 二十二倍」


「敵対的人間関係形成、

 極端集中」


 一拍。


「ライバルキャラですね」


 最低だった。


 ガイウスは、

 頭を押さえる。


「いや待て」


「俺、

 そんなに揉め事好きじゃねえぞ……?」


 だが。


 ログは残酷だった。


 彼は常に。


 戦う立場へ押し込まれている。


 対立。


 衝突。


 競争。


 物語を盛り上げるために。


     ◇


「最後、

 セシル」


 空気が少し静まる。


 セシル・アークライト

 のログが展開される。


 そして。


 今度は、

 全員が黙った。


 異常だった。


 孤立率。


 友人関係断絶。


 誤解。


 疎外。


 離別。


 理解者消失。


 人生の節目ごとに。


 必ず。


 “孤独イベント”

 が発生している。


 偶然ではあり得ない。


 誰かが、

 意図的に。


 彼を、

 孤独な立場へ押し込んでいるみたいに。


 セシルは、

 しばらく無言だった。


 それから。


 真顔で言う。


「うわ」


 一拍。


「属性付けされてる」


 最悪だった。


 観測室へ、

 重い沈黙が落ちる。


     ◇


 レオノーラは、

 静かに術式盤を見上げる。


 アルベルト。


 理想の王子。


 ガイウス。


 宿命のライバル。


 セシル。


 孤独な理解者。


 全部。


 綺麗に、

 役割化されている。


 人間ではない。


 キャラクター。


 その言葉が、

 頭をよぎる。


 そして。


 彼女は、

 理解してしまう。


 彼らは。


 人生を歩いていたのではない。


 “キャラクター性”

 を育成されていた。

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