第十四話 『人生の台本』 Opening 「偶然が多すぎる」
地下観測室。
王都中央観測院、
最深部。
昼夜の感覚すら失われた空間で。
巨大術式盤だけが、
青白く光っていた。
空気は重い。
紙束。
冷めたコーヒー。
床へ転がる術式結晶。
誰も、
まともに寝ていない。
だが。
止まれなかった。
知ってしまったから。
世界がおかしいと。
◇
観測盤中央。
過去ログ解析術式が、
高速で回転している。
人生記録。
因果履歴。
感情波形。
出会い。
別れ。
事故。
偶然。
全部。
解析対象になっていた。
目的は一つ。
運命律が、
人間の人生へ、
どこまで介入していたか。
レオノーラは、
静かに資料を読んでいた。
その横で。
ベアトリクス・ギアハート
が、
高速で数式を書き換えている。
「因果偏向率、
ここでも異常ですね」
「……いや待ってください、
これ幼少期から続いてます?」
術式盤へ、
無数の線が走る。
人生年表。
その上へ。
“イベント発生点”
が、
赤く表示されていく。
そして。
誰も、
黙った。
異常だった。
偶然が。
多すぎる。
◇
運命的出会い。
劇的救出。
都合の良い再会。
悲劇的すれ違い。
完璧なタイミング。
感情増幅イベント。
人生の重要局面で。
異常なほど。
因果が集中している。
普通ではない。
あり得ない。
まるで。
“盛り上がるように”
調整されているみたいに。
セシルが、
疲れた顔で呟く。
「露骨だな……」
観測盤には、
主要人物たちの人生ログが並んでいた。
幼少期。
入学。
出会い。
挫折。
恋愛。
全部。
綺麗すぎる。
物語として。
◇
レオノーラは、
静かに理解してしまう。
最近だけではない。
王都崩壊以降だけでもない。
もっと前。
ずっと前。
幼少期から。
人生そのものが。
“イベント進行”
されていた。
その事実が。
背筋を冷やした。
人は、
偶然で人生を作る。
失敗し。
遠回りし。
無意味な日々を重ねる。
だが。
この記録は違う。
綺麗すぎる。
感情曲線が。
展開が。
タイミングが。
全部。
“見やすい”。
◇
観測室の空気が、
重く沈む。
誰も、
軽口を叩けない。
すると。
ベアトリクスが、
観測盤を見つめたまま言った。
「これ、
人生ログじゃなくて」
一拍。
彼女は、
静かに続ける。
「脚本進行記録ですね」
誰も、
否定できなかった。




