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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン4 「思想崩壊」

王都中央観測院。


 地下深層区画。


 そこでは今、

 世界そのものの解剖が行われていた。


     ◇


 最初は。


 誰も信じなかった。


「観測領域?」


「上映構造?」


「感情送信?」


「馬鹿げてる」


 当然だった。


 あまりにも、

 現実離れしている。


 だが。


 解析結果が、

 全部一致してしまう。


 術式構造。


 感情増幅。


 因果誘導。


 巨大魔法陣。


 全部が。


 “観測”

 を前提として成立していた。


 否定した研究者ほど、

 顔色を失っていく。


 再計算。


 再観測。


 再検証。


 結果は変わらない。


 世界は。


 見せるために、

 作られている。


     ◇


 観測室の一角。


 一人の研究者が、

 青白い顔で呟く。


「我々は……」


 掠れた声。


「キャラクターなのか?」


 誰も答えない。


 別の研究者が、

 机を掴む。


「人生は、

 脚本だったのか?」


「感情は、

 誘導されていた?」


「自由意思は?」


 空気が、

 壊れ始める。


 術式研究者たちは、

 理屈で世界を理解してきた。


 だが。


 今、

 理屈そのものが。


 自分たちの存在を、

 否定している。


「じゃあ何だ……」


「俺たちは、

 誰かを楽しませるために生きてたのか?」


「苦しみも?」


「恋も?」


「悲劇も?」


「全部、

 演出だったのか……?」


 思想崩壊。


 それは、

 静かに始まった。


     ◇


 そして。


 情報は漏れる。


 完全遮断など、

 もう不可能だった。


 王都中へ、

 噂が広がる。


『世界は舞台らしい』


『感情は見世物』


『空の魔法陣は観測装置』


『誰かが見ている』


 最悪だった。


     ◇


 都市部では、

 異常が起き始める。


 空を見なくなる人々。


 巨大魔法陣を見るだけで、

 発作を起こす者。


 恋愛イベント恐怖症。


 観測妄想。


「今、

 見られてる」


「感情を読まれてる」


「反応したら、

 イベントになる」


 人々が、

 自分の感情を恐れ始める。


 さらに。


 自我不安。


「この気持ちは、

 本当に自分のものか?」


「好きという感情も、

 誘導だったら?」


「人生全部、

 脚本だったら?」


 精神医療班は、

 崩壊寸前だった。


 診療室が足りない。


 鎮静術式が足りない。


 医師が足りない。


 なにより。


 答えがない。


     ◇


 地下観測室。


 レオノーラは、

 静かに資料を読んでいた。


 自我不安患者増加。


 睡眠障害。


 集団ヒステリー。


 自殺未遂。


 社会機能低下。


 数字が、

 並んでいる。


 だが。


 彼女は理解していた。


 これは。


 国家崩壊より危険だ。


 もっと根本的。


 文明崩壊級。


 なぜなら。


 人間が生きる上で、

 最も重要な前提。


 それが、

 壊れるから。


 ――自分の人生は本物なのか。


 その問いは。


 法律より強い。


 経済より重い。


 国家より深い。


 人間存在そのものを、

 崩壊させる。


 レオノーラは、

 静かに目を閉じた。


 もし。


 感情が演出なら。


 恋が脚本なら。


 悲劇が娯楽なら。


 では。


 人間とは、

 何だ?


 観測室の天井が、

 低く唸る。


 上空。


 巨大魔法陣が、

 また脈動した。


 まるで。


 人々の混乱すら、

 “面白がっている”

 みたいに。

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