シーン2 「観測層」
地下観測室。
巨大術式盤の光が、
さらに強くなる。
幾重もの魔力環が回転し。
世界地図の上で、
都市群の光点が脈動していた。
その中央で。
ベアトリクス・ギアハート
が、
突然黙る。
指が止まった。
観測盤を見つめる。
何かを見つけた顔。
「……待ってください」
低い声。
さっきまでの軽さが消えている。
ベアトリクスは、
高速で数式を書き換え始めた。
観測範囲拡張。
次元深度調整。
空間位相変換。
術式盤へ、
新しい層が浮かび上がる。
だが。
その瞬間。
観測盤全体へ、
異常警告が走った。
『未知領域検知』
『上位空間反応』
『観測不能層存在』
室内が静まり返る。
セシルが、
眉を寄せる。
「……何だ?」
ベアトリクスは答えない。
数式を再計算。
再観測。
さらに再計算。
そして。
顔色を変えた。
「嘘でしょう……」
もう一度、
観測盤を見る。
結果は同じ。
存在している。
通常空間の外側。
さらに上。
世界そのものを覆うように。
未知領域。
巨大階層。
レオノーラは、
静かに尋ねる。
「……何が見えましたの?」
ベアトリクスは、
数秒沈黙した。
それから。
掠れた声で言う。
「“観測領域”です」
空気が凍る。
「通常次元の外側」
「巨大魔法陣の、
さらに上位層」
術式盤へ、
新たな映像が投影される。
王都上空。
巨大魔法陣。
そこから。
細い光の流れが、
上へ向かって伸びていた。
いや。
王都だけではない。
世界中の都市。
全部。
光が、
どこかへ流れている。
歓声。
期待。
感動。
悲鳴。
涙。
怒り。
熱狂。
感情そのものが。
光へ変換され。
吸い上げられている。
レオノーラは、
初めて声を失った。
あまりにも、
答えが露骨すぎた。
「……本当に、
見せておりますの?」
その問いへ。
ベアトリクスは、
静かに頷く。
「ええ」
術式盤を見上げる。
「これ、
完全に上映構造です」
「観測領域へ、
感情反応を送信してる」
観測室の空気が、
重くなる。
誰も、
否定できない。
だって。
術式として、
完璧すぎた。
感情回収。
演出増幅。
因果補正。
観測誘導。
全部。
“見せるため”
に繋がっている。
ベアトリクスは、
乾いた声で続ける。
「つまり――」
一拍。
「この世界、
配信されてますね」
怖かった。
その言い方が。
軽すぎて。
逆に。
本物だった。
セシルが、
疲れ切った顔で笑う。
「笑えないな」
誰も、
返事をしなかった。
観測盤の光だけが、
静かに脈動している。
まるで。
今この瞬間も。
どこかで、
“見られている”
みたいに。




