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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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第十三話 『観測劇場』 Opening 「はい、世界終わってますね」

王都は、

 まだ壊れていた。


 中央大橋は半壊したまま。


 落下した空中回廊は、

 仮設支柱で無理やり固定され。


 夜になると、

 街のあちこちで結界修復班の光が瞬く。


 それでも。


 人々は、

 空を見なくなっていた。


 理由は単純だ。


 見たくないから。


 王都上空。


 巨大魔法陣。


 幾重にも重なる光輪。


 放射状に広がる光の線。


 まるで。


 天へ向かって作られた、

 巨大円形劇場。


 夜になるたび、

 それは脈動する。


 淡く。


 ゆっくり。


 まるで。


 “まだ公演中”

 だと言わんばかりに。


     ◇


 王都中央観測院。


 その地下深層区画。


 国家最高機密指定、

 超広域術式観測室。


 重厚な魔導扉が開く。


 そこへ入ってきたのは。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 だった。


 長机には、

 大量の術式紙。


 壁一面には、

 巨大観測盤。


 床には、

 魔力計測器。


 そして。


 酷い。


 とにかく散らかっていた。


 冷めたコーヒー。


 山積みのメモ。


 床へ崩れ落ちた数式紙。


 寝ていない人間特有の、

 終末感。


 その中心で。


 女が一人、

 術式盤へ噛みつくように向き合っていた。


 灰色の長髪。


 酷い隈。


 皺だらけの白衣。


 年齢は二十代後半ほど。


 だが目だけが、

 異様に鋭い。


 ベアトリクス・ギアハート


 国家級術式研究者。


 魔導工学界の変人。


 そして。


 悪いタイプの天才だった。


「三十六層……いや違う、

 四十二層か……?」


「待ってくださいね、

 ここ絶対因果接続してますよね?」


 独り言を喋りながら、

 高速で数式を書き換えている。


 目が死んでいるのに、

 未知の術式を前にするとだけ、

 異様に輝く。


 研究者として最悪の類だった。


 観測室の隅では、

 セシル・アークライト

 が、

 疲れた顔でコーヒーを飲んでいる。


「寝てるか?」


「昨日三十分」


「死ぬぞ」


「今ちょっと世界の方が面白いので後回しです」


 終わっていた。


 レオノーラは、

 静かに頭を抱える。


「国家最高研究機関が、

 なぜこんな惨状ですの……」


「研究者を締切で追い込むからですよ」


 即答。


 そこへ。


 巨大観測盤が、

 低く唸った。


 空間投影。


 王都上空。


 巨大魔法陣。


 幾重もの光輪。


 その解析結果が、

 一斉に展開される。


 ベアトリクスは、

 数秒だけ沈黙した。


 観測盤を見る。


 数式を見る。


 再計算。


 さらに沈黙。


 そして。


 第一声。


「はい、

 世界終わってますね」


 軽かった。


 あまりにも軽かった。


 観測室の空気と、

 温度差が酷い。


 書類整理中だったクラリスが、

 真顔になる。


「もっと危機感を持ってください」


 ベアトリクスは、

 真顔で答えた。


「持ってますよ」


 一拍。


「その上で、

 終わってると言ってます」


 正論だった。


 誰も反論できない。


 巨大魔法陣は、

 今も脈動している。


 王都全域を覆い。


 感情を吸い上げ。


 恋愛イベントを増幅し。


 そして。


 どこかへ、

 “送信”している。


 レオノーラは、

 巨大観測盤を見上げた。


 脈動。


 共鳴。


 光輪。


 それはもはや、

 自然現象ではない。


 劇場だ。


 誰かへ見せるための。


 巨大な、

 観測劇場。

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