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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン5 「国家の意味」

地下災害対策本部。


 深夜。


 人の気配も、

 だいぶ減っていた。


 残っているのは、

 徹夜続きの官僚たちと、

 積み上がった被害報告書だけ。


 その中央で。


 レオノーラ・ヴァレンシュタイン

 は、

 一人静かに資料を読んでいた。


 花卉産業統計。


 王都景観条例。


 舞踏会予算。


 学園運営規約。


 攻略対象保護制度。


 全部。


 今までは、

 “そういう文化”だと思っていた。


 だが。


 もう違う。


 知ってしまった。


 この世界には、

 明確な偏りがある。


 恋愛。


 演出。


 感動。


 そこへ向けて。


 国家そのものが、

 設計されている。


 レオノーラは、

 ゆっくり資料を閉じた。


 例えば。


 花産業。


 この国では、

 異様なほど発展している。


 街路樹。


 花弁散布魔法。


 季節演出。


 全部、

 “ロマンチック景観”最優先。


 舞踏会文化もそうだ。


 国家予算規模で、

 毎年巨大イベントを開催する。


 しかも。


 目的は、

 外交でも経済でもない。


『夢を』


『感動を』


『運命を』


 そんな曖昧な言葉ばかり。


 教育制度すら、

 おかしい。


 学園は。


 人材育成機関というより、

 恋愛イベント発生装置だ。


 攻略対象制度もそう。


 優秀な人材を、

 “魅力的な役柄”として配置している。


 王子。


 騎士。


 天才魔術師。


 全部。


 最初から、

 配役されているみたいに。


 そこまで考えた瞬間。


 レオノーラは、

 寒気を覚えた。


 国家。


 法律。


 経済。


 教育。


 文化。


 文明。


 その全部が。


 恋愛物語を、

 成立させるためだけの。


 背景装置。


 舞台美術。


 レオノーラは、

 吐き捨てるように呟く。


「文明ごと、

 恋愛演出へ組み込まれておりますの……?」


 その声は、

 怒りよりも。


 ほとんど恐怖だった。


     ◇


 深夜。


 王都上空。


 巨大魔法陣が、

 静かに脈動している。


 人々の歓声。


 熱狂。


 期待。


 そのたびに。


 光が強くなる。


 まるで。


 拍手へ応えるみたいに。


 高台。


 レオノーラと、

 セシル・アークライト

 は、

 並んで空を見上げていた。


 夜風が強い。


 遠くでは、

 まだ小規模恋愛イベントの歓声が聞こえる。


 そのたび。


 魔法陣が、

 微かに明滅する。


 セシルは、

 空を見たまま言った。


「もしこれが、

 “見せるため”の世界なら」


 一拍。


「当然、

 見る側がいる」


 沈黙。


 レオノーラは、

 ゆっくり空を見上げる。


 星空。


 巨大魔法陣。


 それだけ。


 何もいない。


 誰もいない。


 なのに。


 嫌だった。


 妙に。


 視線を感じる。


 高い場所から。


 遠い場所から。


 この街を。


 人々を。


 感情を。


 人生を。


 眺めている何か。


 レオノーラは、

 無意識に自分の腕を抱いた。


 寒い。


 違う。


 これは。


 見られている感覚だ。


 世界そのものが、

 舞台なら。


 自分たちは今。


 誰かの前で、

 演じさせられている。

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