シーン3 「民衆の役割」
翌日。
王都は、
もう復旧作業だけの街ではなかった。
人がいる。
歓声がある。
期待がある。
そして。
“待っている”。
中央広場。
補修途中の噴水前。
二人の学生が、
偶然ぶつかる。
書類が舞う。
手が触れる。
その瞬間。
周囲が、
一斉にざわめいた。
「あっ……!」
「始まった!」
「見て見て!」
歓声。
期待。
視線集中。
すると。
花弁が舞う。
夕日が強まる。
空気が、
甘ったるく変質する。
完全に演出。
だが。
レオノーラは、
その現象そのものより。
“周囲”を見ていた。
人々が、
嬉しそうだった。
楽しそうだった。
感動していた。
まるで。
自分たちが、
物語の観客であるみたいに。
そして。
その感情が高まるほど。
術式出力も、
比例して上昇していく。
観測盤が、
静かに反応する。
共鳴率上昇。
魔力循環加速。
熱量変換増幅。
レオノーラは、
ゆっくり息を呑んだ。
理解してしまった。
歓声。
熱狂。
期待。
感動。
その全部が。
術式の燃料になっている。
つまり。
民衆は、
ただ見ているだけじゃない。
参加している。
観客でありながら。
同時に。
舞台を成立させる、
装置の一部。
さらに恐ろしいのは。
本人たちが、
それを自覚していないことだった。
「素敵……」
「続き気になる!」
「やっぱり運命ってあるんだ!」
無邪気な声。
悪意はない。
誰も、
街を壊そうとは思っていない。
なのに。
その期待が。
その熱狂が。
世界を、
さらに歪めていく。
レオノーラは、
広場を見下ろした。
人々がいる。
笑っている。
盛り上がっている。
だが。
その全員の足元へ、
見えない糸が繋がっているみたいだった。
舞台へ。
演出へ。
物語へ。
そして。
その中心へ立たされる、
誰かへ。
怖かった。
この世界には。
自由な観客が、
一人も存在しない。
全員。
無自覚に、
役割を与えられている。
演者。
観客。
燃料。
その全部を、
同時にやらされている。
レオノーラは、
静かに呟いた。
「……誰も、
降りられない劇場ですのね」




