シーン2 「観客席」
観測室。
空気が、
張り詰めていた。
巨大魔法陣の立体投影が、
室内中央へ展開されている。
王都上空を覆う、
超広域術式。
幾重にも重なる光輪。
放射状魔力線。
巨大すぎて、
もはや都市そのものと一体化している。
だが。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
そこへ違和感を覚えていた。
「……おかしいですわね」
彼女は、
術式盤へ歩み寄る。
「通常、
都市維持結界なら」
「魔力流は、
中心部へ循環するはずですわ」
だが。
この魔法陣は違う。
レオノーラは、
外周部を拡大した。
その瞬間。
観測術式官たちが、
ざわめく。
「……え?」
「流れが……」
「逆?」
魔力流。
それは。
内側へ収束していなかった。
逆だった。
王都内部で発生した感情エネルギー。
歓声。
熱狂。
感動。
期待。
その全部が。
巨大魔法陣の外周へ向かって、
流出している。
まるで。
どこかへ送信されているみたいに。
室内が静まり返る。
誰も、
すぐには理解できなかった。
いや。
理解したくなかった。
セシルが、
低く呟く。
「……出力先があるのか」
その言葉で。
全員の背筋が冷えた。
レオノーラは、
さらに術式を解析する。
魔力波形。
感情変換率。
共鳴ログ。
そして。
ある結論へ辿り着いた瞬間。
彼女の顔から、
血の気が引いた。
この術式。
“発生”だけが目的ではない。
見せるための構造だ。
そのとき。
一人の若い観測術式官が、
青ざめた顔で呟く。
「これ……」
掠れた声。
「上映装置では?」
沈黙。
誰も否定できなかった。
巨大魔法陣。
円形劇場構造。
視線誘導都市設計。
感情増幅。
観客反応による出力上昇。
そして。
外部へ送信される熱狂。
全部、
繋がってしまう。
世界は。
恋愛イベントを、
ただ発生させているんじゃない。
どこかへ。
“見せている”。
レオノーラは、
静かに空を見上げた。
夜空には、
巨大魔法陣が脈動している。
まるで。
観客の反応を待つ、
舞台装置みたいに。




