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悪役令嬢、予算書を叩きつける  作者: 南蛇井


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シーン1 「舞台構造」

地下観測室。


 壁面いっぱいに、

 王都全域の立体術式マップが展開されていた。


 青白い光で描かれた都市模型。


 道路。


 広場。


 水路。


 建築群。


 その上を、

 無数の魔力線が走っている。


 セシル・アークライト

 は、

 珍しく無言だった。


 軽口もない。


 ただ。


 淡々と解析結果を表示していく。


「……見ろ」


 低い声。


 レオノーラたちが、

 術式盤へ視線を向ける。


 次の瞬間。


 王都各地へ、

 赤い印が灯った。


『中央広場

 → 主舞台領域』


『王立アストレア学園

 → 主人公導線最適化区域』


『西噴水区

 → 告白イベント高発生地点』


『時計塔上部

 → 感情演出増幅装置』


『夕景回廊

 → 雰囲気補正結界』


 沈黙。


 クラリスが、

 小さく呟く。


「……冗談、

 ですよね?」


「残念ながら本気だ」


 セシルは、

 乾いた声で返す。


 さらに術式マップが変化する。


 人流予測。


 視線誘導。


 群衆停滞率。


 すると。


 恐ろしいことが分かった。


 王都の道路設計そのものが。


 “見やすく”作られている。


 例えば。


 中央広場。


 自然と人が立ち止まる角度。


 噴水を囲む視界配置。


 階段の高さ。


 建物間距離。


 全部。


 イベント中心人物へ、

 視線が集まるよう設計されている。


 学園回廊も同じだった。


 曲がり角。


 窓配置。


 夕日の差し込む角度。


 偶然ぶつかった瞬間、

 一番“絵になる”位置へ、

 自然と誘導される。


 完全に。


 劇場設計。


 レオノーラは、

 ゆっくり息を呑んだ。


「都市計画そのものが……」


「恋愛演出前提……?」


「そういうことだ」


 セシルが、

 指先でマップを拡大する。


 王都全域。


 放射状構造。


 中心へ視線が集まる設計。


 しかも。


 高所観測点まで、

 異様に多い。


 時計塔。


 テラス。


 橋上通路。


 全部。


 “見物席”だった。


 そこまで理解した瞬間。


 室内の空気が変わる。


 誰も、

 言葉を失っていた。


 国家都市設計。


 交通。


 景観。


 建築。


 全部。


 恋愛イベントを、

 “美しく見せる”ために存在している。


 そんな馬鹿げた話が。


 術式解析結果として、

 成立してしまっている。


 セシルは、

 乾いた笑いを漏らした。


「はは」


 疲れ切った声。


「王都そのものが、

 巨大ステージだ」

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