シーン4 「ミレイユの恐怖」
ミレイユ・フェルナン
は、
最近ずっと俯いて歩いていた。
誰とも目を合わせない。
廊下の端を歩く。
人の少ない道を選ぶ。
それでも。
世界は、
彼女を見つけ出す。
昼休み。
学園廊下。
ミレイユが角を曲がった瞬間。
「あっ、
ミレイユ様!」
誰かが声を上げる。
その瞬間。
空気が変わった。
ふわり。
天井近くから、
花弁が舞い始める。
最初は数枚。
だが。
視線が集まるほど、
量が増えていく。
「見て、
また始まった!」
「綺麗……!」
「誰が来るの!?」
ざわめき。
期待。
熱。
それが、
空間魔力へ変換されていく。
花吹雪が、
さらに激しくなる。
ミレイユの肩が、
びくりと震えた。
逃げるように廊下を去る。
だが。
広場へ出た瞬間。
今度は噂が広がる。
「さっき、
攻略対象と話してたって!」
「えっ、
新ルート!?」
「続きある!?」
その瞬間。
空間が、
低く共鳴した。
空気が甘くなる。
光粒子が漂う。
広場中央の噴水が、
意味もなく虹色に発光し始める。
完全に、
演出空間。
周囲の人々は、
興奮している。
誰も、
彼女の顔を見ていない。
怯えていることにも。
呼吸が浅くなっていることにも。
気づかない。
ただ。
“イベント”を見ている。
さらに。
遠くから、
アルベルト・ルクレール
が現れる。
偶然。
本当に偶然。
……のはずだった。
人々が、
一斉にざわめく。
「来た!!」
「メインイベント!!」
「並んだ!!」
その瞬間。
王都上空の魔力光が、
強く脈動した。
夕日が、
不自然なほど鮮やかになる。
光が伸びる。
風が吹く。
花弁が渦を巻く。
まるで。
世界そのものが、
盛り上がっている。
ミレイユは、
立ち尽くした。
理解してしまったから。
自分が見られるほど。
期待されるほど。
世界が暴走する。
つまり。
皆が自分を見ている限り。
この災害は、
終わらない。
彼女の指先が、
小さく震える。
「わたし……」
掠れた声。
「“人”じゃなくて……」
一拍。
「物語として、
見られてる……」
重かった。
誰かの憧れ。
誰かの期待。
誰かの“続きが見たい”。
その全部が。
彼女から、
人間性を削っていく。




