シーン3 「観客化した民衆」
王都中央区。
昼下がり。
復旧工事の音が、
まだあちこちで響いている。
崩れた外壁。
補強中の橋。
仮設結界。
本来なら。
人々は、
災害の傷跡へ怯えているはずだった。
だが。
街の空気は、
妙に浮ついていた。
「あっ」
通りを歩いていた少女が、
突然声を上げる。
「見て、
あれ!」
視線の先。
学園制服の男女が、
偶然ぶつかかる。
散らばる書類。
慌てて拾う二人。
その瞬間。
ふわり。
花弁が舞った。
「きゃー!!」
「始まった!!」
「誰と誰!?」
周囲の人間が、
一斉に集まり始める。
野次馬。
学生。
商人。
通行人。
全員。
完全に、
ドラマ視聴者の顔だった。
「これ絶対イベントだ!」
「続き気になる!」
「メインルート来た!?」
しかも。
人が集まるほど。
空間魔力が、
増幅していく。
花弁の量が増える。
風が強まる。
夕日演出まで追加される。
偶然接触だったはずなのに。
いつの間にか、
背景音楽みたいな魔力共鳴まで発生していた。
そして。
その場の誰も、
異常だと思っていない。
むしろ。
期待している。
盛り上がっている。
「次はどうなる?」
「誰が告白する?」
そんな空気そのものが。
運命律を、
さらに強化していく。
別の通りでは。
攻略対象の一人が歩いただけで、
群衆がざわつく。
「あれ、
アルベルト様じゃない?」
「えっ、
ヒロイン来る!?」
「止まって見よう!」
その瞬間。
人流が歪む。
通行人が、
無意識に道を空ける。
偶然の導線が形成される。
完全に、
世界が“イベント空間”へ変質していた。
怖いのは。
誰も悪意でやっていないことだった。
人々はただ。
面白がっているだけ。
恋愛を見て、
盛り上がっているだけ。
でも。
その期待が。
その熱狂が。
現実改変を、
加速させている。
つまり。
民衆自身が、
災害へ加担している。
しかも。
無自覚に。




