シーン2 「観測問題」
地下観測室。
壁面いっぱいに、
無数の術式グラフが浮かんでいる。
運命律出力。
群衆密度。
感情共鳴率。
新聞発行数。
イベント発生地点。
全部。
一本の線で、
繋がり始めていた。
室内は静かだった。
誰も、
軽口を叩けない。
仮説が、
あまりにも最悪だからだ。
セシル・アークライト
は、
観測盤を操作しながら言う。
「運命律は、
恋愛感情だけで増幅してるわけじゃない」
空間へ、
新しいグラフが展開される。
イベント規模。
その横に。
観客数。
歓声量。
報道拡散率。
完全に一致していた。
「期待」
「注目」
「感情移入」
「熱狂」
「“続きが見たい”って欲望」
一拍。
「それ自体が、
燃料になってる」
最低だった。
つまり。
運命律は。
恋愛する当人たちだけで、
成立していない。
見ている人間。
盛り上がる群衆。
噂する民衆。
続きを期待する空気。
全部が。
術式へ加担している。
“観客”が。
恋愛イベントを、
成立させている。
術式官の一人が、
青ざめた顔で呟く。
「じゃあ、
王都全体が……」
「巨大な観客席ですね」
誰も否定できない。
実際。
人が集まるほど、
イベントは強化される。
歓声が上がるほど、
偶然が不自然になる。
熱狂が大きいほど、
現実改変が深くなる。
完全に。
観測参加型災害だった。
その説明を聞きながら。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
ゆっくり額を押さえる。
頭痛がする。
本当に。
この世界は、
どこまで終わっているのか。
「国家規模で」
低い声。
「野次馬根性が、
術式化しておりますの……?」
室内が沈黙する。
だが。
あまりにも的確すぎて。
誰も反論できなかった。




