シーン1 「拍手」
災害対策本部。
地下観測室。
薄暗い部屋の中で、
魔導投影板だけが青白く光っていた。
机の上には、
山積みの報告書。
恋愛イベント記録。
空間魔力変動。
被害一覧。
新聞記事。
観測ログ。
全部、
ここ数か月分。
セシル・アークライト
は、
その中心で黙々と解析を続けていた。
「第一話時点から全部並べろ」
「発生地点、
時刻、
群衆数、
感情共鳴率も」
術式官たちが、
慌てて記録を整理していく。
壁面へ、
巨大な時系列図が展開された。
学園事件。
噴水暴発。
舞踏会災害。
王都崩壊。
奇跡発動。
全部、
一列に並ぶ。
そして。
セシルは気づく。
「……これか」
指先で、
一つの数値を拡大する。
運命律出力。
その変動タイミング。
普通なら。
恋愛感情発生時。
接触時。
好意発覚時。
そういう瞬間に、
出力が増加するはずだった。
だが。
実際は違う。
数値が最も跳ね上がるのは。
“その後”だった。
歓声。
熱狂。
噂。
新聞報道。
野次馬集中。
そして。
拍手。
観客反応が大きいほど。
運命律が、
異常強化されている。
セシルの目が細くなる。
「……ああ」
「そういうことか」
彼は、
過去ログをさらに遡る。
第一部。
王立舞踏会。
あの日。
ミレイユ・フェルナン
と攻略対象たちが、
“運命的演出”へ巻き込まれた瞬間。
人々は歓声を上げた。
感動した。
盛り上がった。
そして。
拍手した。
その直後。
運命律出力が、
一段階跳ね上がっている。
明確に。
観測できるレベルで。
セシルは、
静かに息を吐く。
最悪の仮説が、
繋がってしまった。
この世界は。
恋愛感情だけで動いているんじゃない。
“見届けられること”。
それ自体を、
燃料にしている。
彼は、
投影板を見つめたまま呟く。
「見られてるほど、
強くなってるな」
その言葉に。
観測室の空気が、
一気に冷えた。




