ラストシーン 「涙の代償」
夜明け。
王都には、
久しぶりに静かな光が差していた。
崩壊は止まった。
落ちかけていた建物は固定され。
暴走魔力も沈静化。
避難路も復旧し始めている。
人々は、
生き残った。
だから。
街のあちこちで、
人々が奇跡を語っていた。
「見たか?」
「空が光って……」
「一瞬で全部止まったんだ」
「女神みたいだった……」
感謝。
興奮。
安堵。
誰もが、
昨夜を“救済”として記憶し始めている。
だが。
地下災害対策本部だけは、
空気が違った。
重い沈黙。
机の上へ、
次々報告書が積まれていく。
「北方農業都市、
魔力枯渇確認」
「生命維持結界停止」
「作物被害、
拡大中」
「寒冷地域、
凍死者発生……」
「沿岸防壁、
一部崩壊」
「地方都市アルメリア、
死者十三名」
誰も喋らない。
紙をめくる音だけが、
静かに響く。
昨夜、
王都で起きた奇跡。
その代償が。
遠方で、
ゆっくり人を殺している。
その現実を。
全員、
理解してしまったから。
部屋の隅。
ミレイユ・フェルナン
は、
一人座っていた。
膝を抱え。
小さく震えている。
彼女は、
まだ真実の全てを知らない。
それでも。
空気で分かってしまう。
昨夜の奇跡が。
何かを奪ったのだと。
涙が、
ぽたりと落ちる。
「わたし……」
掠れた声。
「本当に……」
一拍。
「助けたの……?」
誰も答えられなかった。
答えられるはずがなかった。
王都は救われた。
だが。
別の場所で、
誰かが死んでいる。
それを。
“救済”と呼んでいいのか。
誰にも分からない。
少し離れた場所で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに目を閉じた。
運命律。
奇跡。
恋愛補正。
その全部が。
あまりにも効率的だった。
犠牲を見えなくすることに。
「奇跡とは、
世界が最も効率よく“代償”を隠す行為でしたのね……」




