シーン6 「守る理由」
夜。
災害対策本部屋上。
王都の空には、
まだ微かな魔力光が漂っていた。
崩壊は止まった。
だが。
復旧は、
まだ始まったばかりだ。
遠くでは今も、
救助灯が動いている。
担架が運ばれ。
工事班が瓦礫を退かし。
医療班が走り回る。
徹夜の街。
疲弊した国家。
その光景を見下ろしながら。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
黙って立っていた。
隣には。
セシル・アークライト
がいる。
珍しく、
軽口はない。
彼もまた、
観測結果の重さを理解していた。
しばらく沈黙。
風だけが吹く。
やがて。
セシルが、
静かに口を開いた。
「世界は」
一拍。
「ミレイユを、
“奇跡発生装置”として完成させ始めてる」
最悪の言い方だった。
だが。
あまりにも正確だった。
感情へ反応する運命律。
恋愛イベント強制。
世界規模の奇跡。
そして。
代償の転嫁。
全部。
ミレイユ・フェルナン
という存在を中心に、
最適化され始めている。
人格ではない。
少女でもない。
“機能”。
世界は、
彼女をそう扱っている。
セシルは、
低く続けた。
「たぶん、
まだ出力は上がる」
「このまま行けば、
王都どころじゃ済まない」
「国家単位か、
大陸単位か……」
そこで言葉を切る。
冗談では済まない未来が、
見えていた。
だが。
レオノーラは、
静かだった。
怒鳴りもしない。
絶望もしない。
ただ。
遠くの救助灯を見つめたまま、
答える。
「なら尚更」
一拍。
「あの子を、
放置できませんわね」
セシルが、
少しだけ目を細める。
その言葉で、
理解したのだ。
彼女の目的が、
変わったことを。
最初は。
国家防衛だった。
都市機能維持。
財政再建。
恋愛災害対策。
だが今は違う。
レオノーラは。
一人の少女を、
守ろうとしている。
世界そのものから。
利用され。
消費され。
奇跡装置へ変えられようとしている、
ミレイユを。
救おうとしている。
セシルは、
小さく笑った。
「悪役令嬢にしては、
優しすぎるな」
レオノーラは、
即答する。
「悪役令嬢ですもの」
「世界へ反逆するくらい、
当然でしょう?」
その声は静かだった。
だが。
誰よりも強かった。




