シーン5 「ミレイユの罪悪感」
夜明け前の王都。
崩壊は、
止まっていた。
瓦礫は静まり。
暴走魔力も沈黙し。
避難誘導灯が、
淡く街を照らしている。
人々は、
生き残った。
だから。
皆、
泣いていた。
「助かった……」
「生きてる……」
「奇跡だ……」
その中心にいるのは。
ミレイユ・フェルナン
だった。
彼女は、
広場の端で座り込んでいる。
まだ涙が止まらない。
そんな彼女へ。
一人の女性が近づいた。
腕に包帯。
疲れ切った顔。
それでも。
泣きながら笑っていた。
「ありがとう……」
震える手で、
ミレイユの手を握る。
「娘が……
助かったの……」
その後ろでは。
子供が、
眠そうに母親へ抱きついていた。
さらに。
別の老人。
負傷した騎士。
避難してきた住民。
次々、
人が集まってくる。
「本当に、
ありがとう」
「あなたのおかげで……」
「救われたよ……」
感謝。
涙。
祈りみたいな視線。
まるで。
彼女を、
救世主として見ている。
普通なら。
嬉しいはずだった。
誰かを救えたのなら。
喜ぶべきだった。
でも。
ミレイユは、
苦しかった。
胸が痛い。
息が詰まる。
本当に、
救ったのだろうか。
脳裏に、
嫌な感覚が残っている。
白い光が広がった瞬間。
どこか遠くで。
何かが、
急速に失われていく感触があった。
見ていない。
知らない。
なのに。
分かってしまう。
この奇跡は。
無から生まれていない。
どこかで。
誰かが。
代わりに苦しんでいる。
「……っ」
ミレイユは、
自分の胸元を強く掴む。
怖かった。
もし本当に。
自分が救われるたび。
誰かが犠牲になるのなら。
この力は、
何なのか。
奇跡なのか。
災厄なのか。
周囲の人々は、
まだ感謝している。
笑っている。
だが。
その優しさが、
今の彼女には痛かった。
“奇跡は、
誰かから奪っている”
その確信だけが、
静かに心へ沈んでいく。
だから。
ミレイユは、
さらに自分を恐れ始めた。
誰かを救いたいと願うほど。
世界が、
別の誰かを傷つけるのなら。
自分はもう。
何を願えばいいのか、
分からなかった。




