シーン4 「世界のシステム」
観測室は、
静まり返っていた。
さっきまで響いていた歓声も。
「奇跡だ」という声も。
もう誰も口にしない。
壁面に映る遠方都市。
暗い街。
停止した術式。
凍結し始める農地。
崩れかけた防壁。
その光景が。
今この瞬間、
王都を救うために支払われた代償だと。
全員、
理解してしまったからだ。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに測定器を見つめていた。
数字。
魔力流量。
供給経路。
共鳴分配。
全部、
繋がっていく。
そして。
理解する。
運命律。
この世界を支配する、
“恋愛成立法則”。
それは。
決して万能の祝福ではない。
奇跡ですら、
ちゃんと代償を要求している。
等価交換。
王都を救うなら。
別のどこかから、
資源を奪う。
恋愛イベントを成立させるためなら。
地方都市の生命線すら、
平然と消費する。
つまり。
ヒロイン補正とは。
無限の愛でも。
神聖な奇跡でもない。
国家規模資源収奪システム。
怖すぎた。
しかも最悪なのは。
その犠牲が、
徹底的に“見えない”ことだった。
王都の民衆は、
奇跡に涙する。
救われたと感謝する。
だがその裏で。
遠方では、
誰かが凍え。
誰かが飢え。
誰かが結界崩壊で死ぬ。
演出のために。
感動のために。
その構造が。
あまりにも醜悪だった。
レオノーラの指先が、
僅かに震える。
怒っていた。
静かに。
だが確実に。
「人命を」
一拍。
「演出コスト扱いしていますの……?」
低い声。
その場の誰も、
返事ができない。
なぜなら。
否定できなかった。
この世界は本当に。
恋愛イベントを美しく成立させるためなら。
国家も。
生活も。
人命すら。
“必要経費”として処理していたのだから。




