シーン3 「代償」
災害対策本部。
誰もが、
奇跡に呑まれていた。
「助かった……!」
「結界が戻ってる!」
「負傷者が回復してるぞ!!」
歓声。
安堵。
泣き声。
崩壊寸前だった空気が、
一気に希望へ変わっていく。
だが。
その中で。
セシル・アークライト
だけは、
笑っていなかった。
観測盤の前。
彼は無言で、
数値を睨んでいる。
指先が、
高速で術式画面を切り替えた。
「……おかしい」
低い声。
周囲の術式官たちが、
振り返る。
「何がです?」
セシルは答えない。
ただ。
王都全域の魔力流量を、
再確認する。
奇跡発動後。
莫大な出力が発生した。
都市全域治癒。
結界再接続。
魔導炉再起動。
空間固定。
全部、
国家規模を超えている。
なのに。
王都内部の魔力総量が、
増えていない。
あり得なかった。
普通なら、
供給源が必要だ。
だが、
観測上は存在しない。
つまり。
この奇跡は。
“どこかから持ってきている”。
セシルの顔色が、
ゆっくり変わる。
「観測範囲、
拡張」
即座に術式展開。
王都外縁。
地方結界。
周辺都市。
遠隔魔力流。
解析範囲が、
一気に広がっていく。
そして。
発見した。
遠方地方都市。
複数。
同時異常。
「……は?」
術式官が、
青ざめる。
観測映像。
暗転した街。
停止した魔導灯。
術式停止した農地。
崩れ始める防壁。
生命維持結界の、
急激な減衰。
街全体から、
魔力だけが抜け落ちている。
まるで。
内臓を抜き取られたみたいに。
地方都市が、
急速に死に始めていた。
「農業術式停止……!」
「防壁出力低下!!」
「寒冷地結界、
維持不能!!」
「待ってください、
これ全部同時に――」
完全に、
二次災害だった。
しかも。
原因は一つ。
王都。
今起きた、
奇跡。
室内が静まり返る。
誰も、
言葉を失っていた。
その中で。
セシルだけが、
観測盤を見つめたまま呟く。
「……奪ってる」
静かな声。
だが。
あまりにも重かった。
王都を救った奇跡は。
無から生まれた祝福ではない。
どこかの誰かから、
強制的に奪った命綱だった。




