第十話 『ヒロインの涙』Opening 「泣いているヒロイン」
王都は、
崩壊寸前だった。
空間断裂継続。
送電停止。
通信断絶。
避難経路消失。
暴走した魔力嵐が、
夜空を裂いている。
街のあちこちで、
悲鳴が響いた。
「逃げろ!!」
「回廊が落ちる!!」
「医療班を呼べ!!」
だが。
その混乱すら。
世界にとっては、
背景でしかなかった。
空には、
まだ花弁が舞っている。
光が降る。
どこか甘い音楽まで、
微かに聞こえていた。
壊れている。
完全に。
世界の優先順位が。
その中心。
崩れた広場の中で。
ミレイユ・フェルナン
は、
立ち尽くしていた。
限界だった。
服は汚れ。
呼吸は乱れ。
震える指先が、
自分の胸元を掴んでいる。
彼女は、
理解してしまったのだ。
自分が感情を動かすたび、
世界が暴走することを。
誰かを想えば、
街が壊れる。
誰かを大切に思えば、
人が傷つく。
自分の“好意”が。
まるで災害の引き金みたいに、
現実を歪めていく。
だから。
怖かった。
誰かを見るのが。
誰かと話すのが。
好きになることが。
全部。
怖かった。
周囲では今も、
人々が逃げ惑っている。
崩落。
爆発。
空間歪曲。
その全部が。
自分を中心に発生している気がした。
「わたしの……」
声が震える。
「わたしのせいで……」
膝が崩れる。
彼女は、
ついに泣き崩れた。
「もう……」
涙が落ちる。
「もう、
誰も傷ついてほしくない……!」
その瞬間。
どくん。
世界が、
脈動した。
王都全域へ、
白い魔力波が走る。
空間が震える。
空が鳴る。
観測盤の針が、
一斉に限界値を突破。
運命律。
歴代最大反応。
まるで。
世界そのものが。
一人の少女の涙へ、
応答したみたいだった。




