ラストシーン 「停止」
夜明け前。
王都は、
静まり返っていた。
魔導列車は停止。
橋梁は崩落。
送電網は沈黙。
通信塔も、
光を失っている。
街路には、
瓦礫。
折れた街灯。
崩れた石壁。
避難できなかった馬車が、
途中で放置されていた。
都市が。
国家が。
止まっている。
それなのに。
空だけは、
異様なほど美しかった。
巨大な魔力光。
夜明け前の群青を裂く、
流星みたいな光の尾。
花弁が、
風もないのに舞っている。
空間そのものが、
淡く脈動していた。
まるで。
世界だけが、
恋愛に酔っているみたいだった。
高台。
瓦礫の街を見下ろして。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
黙って立っていた。
その隣には。
アルベルト・ルクレール
がいる。
疲れ切った顔だった。
泥。
煤。
徹夜の隈。
もう、
“輝く王子様”には見えない。
ただ。
災害を見てしまった、
一人の青年だった。
長い沈黙。
遠くで、
崩れた建材の音だけが響く。
やがて。
アルベルトが、
静かに口を開く。
「……俺たち」
一拍。
「間違ってたんだな」
その声には、
もう夢がなかった。
レオノーラは、
少しだけ沈黙する。
責めることも。
嘲ることも。
しなかった。
ただ。
疲れた目で、
崩壊した王都を見る。
そして。
「ようやく、
被害報告書が届きましたのね」
厳しい言葉だった。
だが。
その声もまた、
少し掠れていた。
責め続けることすら、
疲れるほどに。
この数日で、
彼女も限界へ近づいていた。
遠くの空で。
また、
光が弾ける。
祝福みたいに。
奇跡みたいに。
誰かの恋を、
称えるみたいに。
その下で。
都市は止まっている。
人々は疲弊している。
それでも世界は、
美しい演出をやめない。
レオノーラは、
静かに目を細めた。
「恋愛のために都市が止まるなど、
国家として欠陥にも程がありますわ……」




