シーン6 「世界の優先順位」
災害対策本部、
観測区画。
壁一面に、
魔力観測盤が並んでいる。
青。
赤。
紫。
異常値を示す光が、
絶え間なく点滅していた。
術式担当官たちは、
もう半ば麻痺している。
「東区共鳴率、
また上昇!!」
「中央空域、
空間歪曲継続!!」
「恋愛導線、
再形成されています!!」
「何で増えるんだ!!」
誰かが叫ぶ。
本当にその通りだった。
被害は拡大している。
死傷者も出ている。
都市機能も崩壊寸前。
普通なら。
普通の災害なら。
どこかで出力が落ちる。
世界そのものが、
安全側へ戻ろうとする。
だが。
運命律だけは違った。
むしろ。
被害が増えるほど、
活性化している。
観測盤の前で。
セシル・アークライト
の顔が、
珍しく引きつっていた。
「……おかしい」
低い声。
彼は、
高速で術式データを読み取っていく。
共鳴率。
感情波形。
空間固定値。
全部、
異常だった。
「人命被害発生後も、
出力低下なし」
「都市機能停止後も、
優先処理継続」
「感情誘導、
さらに強化……?」
一拍。
セシルが、
乾いた笑いを漏らす。
「終わってるな、
この世界」
誰も否定しない。
その横で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
静かに測定器を見つめていた。
針が揺れる。
危険域。
限界値。
それでも。
運命律は止まらない。
まるで。
何より優先すべきものが、
最初から決まっているみたいに。
恋愛イベント。
主人公ルート。
感情演出。
それを成立させるためなら。
橋が落ちてもいい。
都市が止まってもいい。
人が傷ついてもいい。
世界は、
一切ためらわない。
そこで。
レオノーラは、
理解してしまう。
この世界にとって。
国家とは。
法律とは。
インフラとは。
人命とは。
全部。
“演出の背景”でしかない。
恋愛イベントを、
美しく見せるための。
ただの舞台装置。
その事実が。
ぞっとするほど、
冷たかった。




