シーン5 「責任」
地下災害対策本部。
空気は、
限界まで張り詰めていた。
「東区結界、
残存率二十%!!」
「第六避難路、
群衆滞留!!」
「医療物資、
あと三時間分です!!」
怒号。
報告。
魔導通信のノイズ。
誰も座っていない。
誰も休んでいない。
その中心。
巨大地図の前で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
休む暇もなく指示を飛ばしていた。
「北水路閉鎖」
「第四輸送路、
避難専用へ切替」
「負傷者は重症優先、
魔力欠乏症状を先に――」
そこへ。
足音。
室内の空気が、
一瞬揺れる。
現れたのは。
アルベルト・ルクレール
だった。
服は汚れ、
顔色も悪い。
さっきまで、
現場を見ていたのだろう。
周囲の官僚たちが、
一瞬動きを止める。
だが。
アルベルトは、
いつものように場を支配しなかった。
静かに。
真っ直ぐ、
レオノーラを見る。
「俺にも」
一拍。
「何かやらせてくれ」
静寂。
それは。
初めての言葉だった。
“主人公”としてではない。
“王子”としてでもない。
ただ。
当事者として、
立った言葉。
レオノーラは、
一瞬だけ目を見開く。
驚いたのだ。
本当に少しだけ。
だが。
次の瞬間には、
いつもの冷静な顔へ戻る。
「では第三避難区画へ」
即答だった。
「王族権限で、
輸送門を開放してくださいまし」
「現在、
許可手続きで止まっております」
「貴方なら飛ばせますわね?」
アルベルト、
迷わない。
「ああ」
即座に頷く。
「やる」
そのまま踵を返す。
止まらない。
誰かに褒められるためでも。
格好をつけるためでもない。
必要だから、
動く。
それだけだった。
周囲の官僚たちが、
少し驚いた顔をする。
「あの王子が……」
「自分から……?」
クラリスも、
静かに目を瞬く。
一方。
レオノーラは、
もう次の指示へ移っていた。
「第三区画、
受け入れ準備」
「輸送門再稼働後、
医療班を優先移動」
だが。
その横顔を見たセシルだけは、
少し笑う。
セシル・アークライト
は、
ぼそりと呟いた。
「ようやく、
イベント参加者から卒業か」
その言葉通り。
この瞬間から。
アルベルト・ルクレールは初めて。
“責任を持つ側”へ、
足を踏み入れた。




