シーン4 「アルベルトの現実」
アルベルト・ルクレール
は、
瓦礫の街を歩いていた。
護衛も、
取り巻きもいない。
ただ一人。
夜の王都を。
崩れた王都を。
黙って見ていた。
中央区。
石畳は割れ、
噴水は崩れ、
魔導灯は沈黙している。
煙。
焦げ臭さ。
遠くで聞こえる悲鳴。
そこを、
担架が通り過ぎた。
「急げ!!」
「次の患者だ!!」
「魔力欠乏症状あり!!」
医療班の声。
疲弊している。
顔色が悪い。
それでも止まれない。
さらに。
崩れた橋付近では、
工事班が徹夜で作業していた。
「支柱固定!!」
「水流押さえろ!!」
「落ちるぞ!!」
泥だらけの男たちが、
眠気でふらつきながら石材を運ぶ。
その横。
小さな子供が、
泣いていた。
「おうち……
こわれちゃった……」
母親が抱きしめる。
「大丈夫よ」
声が震えていた。
大丈夫ではない。
誰が見ても。
大丈夫ではなかった。
アルベルトは、
立ち尽くす。
言葉が出ない。
脳裏に、
過去の舞踏会が浮かぶ。
光。
音楽。
歓声。
花吹雪。
笑顔。
彼は、
本気で信じていた。
恋愛イベントは、
夢だと。
皆を幸せにする、
特別な奇跡だと。
だが。
現実は違った。
橋が落ちる。
街が壊れる。
人が傷つく。
誰かが泣く。
そして。
誰かが、
その後始末をしていた。
徹夜で。
血を流して。
生活を削って。
彼が、
“ロマンチック”と呼んでいたもののために。
そこで。
ようやく。
彼は理解する。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、
何度も言っていた言葉を。
「……災害だったのか」
ぽつり。
静かな声。
遅かった。
本当に、
遅かった。
遠くでは今も、
避難誘導灯が点滅している。
その光が。
初めて。
アルベルトには、
救難信号に見えた。




