シーン3 「宰相みたいな令嬢」
王都庁舎地下。
災害対策本部。
そこはもう、
会議室ではなかった。
戦場だった。
「東区避難路、
再崩落!!」
「医療班から支援要請!!」
「第六送電塔、
完全停止!!」
「北水路、
逆流始まってます!!」
怒号。
報告。
悲鳴。
机を叩く音。
走る足音。
魔導通信のノイズ。
誰も休んでいない。
全員、
限界寸前だった。
その中心。
巨大王都地図の前で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
だけが、
異様なほど冷静だった。
「東水路、
第二遮断弁を閉鎖」
「医療物資は、
北区備蓄庫から優先輸送」
「第三区魔導炉、
暴走前に停止してくださいまし」
「王都西側、
封鎖線を構築」
「避難経路、
南側へ再設定」
即断。
迷いがない。
官僚たちが走る。
騎士たちが動く。
誰も、
彼女の指示を疑わない。
もう。
王族命令より、
彼女の判断の方が信用されていた。
クラリスが、
青ざめたまま書類を抱える。
「第三医療区画、
負傷者超過です!」
「受け入れ限界を――」
「なら第五区画を臨時開放」
即答。
「転移門は?」
「不安定です!」
「使わないでくださいまし。
転送事故の方が危険です」
淡々としている。
だが。
その判断は、
全部正しい。
周囲の官僚たちが、
途中から妙な顔になり始める。
「……あれ?」
「この人……」
「国家回してるな?」
気づいてしまった。
今この瞬間。
王都を維持しているのが、
誰なのか。
完全に宰相だった。
一方。
土木班区域。
トーマ
が、
瓦礫まみれで呟く。
「もう王宮が、
この人に従った方が早いのでは……」
沈黙。
誰も否定しない。
むしろ。
数人、
静かに頷いた。
その瞬間。
遠方で爆発音。
魔導塔一本、
倒壊。
室内が揺れる。
だが。
レオノーラだけは、
眉一つ動かさない。
「第七区画、
避難優先度を上げますわ」
疲労で声は少しかすれていた。
それでも。
彼女は止まらない。
止まった瞬間。
この国が、
本当に崩壊すると分かっていたからだ。




