第九話 『都市機能停止』 Opening 「止まる王都」
深夜。
王都は、
静かに壊れていた。
最初に落ちたのは、
中央大橋だった。
運河上空。
青白い結界光が、
びきびきと悲鳴を上げる。
次の瞬間。
橋脚崩落。
石材が砕け、
巨大な橋体が水面へ沈む。
轟音。
悲鳴。
避難中の群衆が、
一斉に混乱する。
「橋が落ちたぞ!!」
「下がれ!!」
「子供を先に!!」
だが。
それは、
始まりに過ぎなかった。
王都西部。
魔導列車、
全線停止。
理由不明。
いや。
正確には、
理由は分かっていた。
“運命的再会イベント発生による空間固定”。
最悪である。
線路上で、
二人が見つめ合っている間だけ。
空間が、
異常安定化。
列車が、
一ミリも進まない。
さらに。
王都中央送電塔群。
感情共鳴干渉。
魔導回路焼損。
送電網遮断。
街灯が、
次々落ちていく。
ぱちん。
ぱちん。
王都が、
暗く沈む。
通信魔法塔も沈黙。
遠距離通信不能。
転移門は誤作動を起こし、
北区行きが浴場へ繋がる。
意味が分からない。
医療区画孤立。
食料輸送停止。
物流崩壊。
完全に、
国家災害だった。
なのに。
中央広場。
崩れた噴水の前で。
一部民衆が、
まだ空を見上げている。
「今回の演出すごいな……」
「王家、
本気出しすぎだろ」
「没入感やばい」
怖い。
認識が、
もう取り返しのつかない所まで来ていた。
一方。
王都庁舎地下。
災害対策本部。
徹夜続きの空気。
机の上には、
積み上がった被害報告。
崩落。
停電。
孤立。
負傷者。
魔力暴走。
全部赤字。
「東区通信断!!」
「第七避難路、
空間断裂で消失!!」
「医療班、
薬剤不足!!」
怒号が飛び交う。
誰も座っていない。
全員、
限界だった。
その中央。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
立っていた。
徹夜三日目。
髪は少し乱れ、
目の下には疲労の影。
だが。
声だけは、
異様なほど冷静だった。
「中央水路封鎖」
「第三転移門、
避難優先へ切替」
「北区の食料備蓄を、
東医療区画へ回してくださいまし」
官僚たちが動く。
騎士たちが走る。
誰も逆らわない。
もう。
誰も彼女を、
悪役令嬢だと思っていなかった。
今ここで。
王都を動かしているのは。
間違いなく、
彼女だった。




