ラストシーン 「世界の意思」
深夜。
王都。
その空は、
もう正常ではなかった。
雲の代わりに、
巨大な魔法陣が脈動している。
幾重にも重なった光輪。
空間を覆う、
薄紅色の魔力流。
王都全域が、
ゆっくり呼吸しているみたいだった。
脈動。
収縮。
共鳴。
どくん。
どくん。
まるで。
世界そのものに、
心臓が生えたみたいに。
災害対策本部。
観測室。
誰も喋らない。
魔力計測器は、
全部振り切れていた。
数値が、
もう意味を成していない。
記録係の官僚が、
震え声で呟く。
「……観測不能です」
「空間係数、
理論値を超えてます……」
「こんなの、
自然魔法じゃ――」
最後まで言えなかった。
観測盤の前。
セシル・アークライト
は、
黙って空を見ていた。
顔色が悪い。
普段なら、
どこか余裕を崩さない男が。
今は。
本気で嫌そうだった。
「まずい」
その声に。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
が、
視線を向ける。
「何がですの?」
セシルは、
少しだけ沈黙した。
まるで。
言葉にしたくないみたいに。
だが。
観測者として、
もう誤魔化せなかった。
「運命律、
もう“自然現象”じゃない」
一拍。
観測盤が、
不気味に脈打つ。
どくん。
どくん。
セシルは、
静かに言った。
「意思だ」
室内沈黙。
誰も、
否定できない。
偶然じゃない。
演出でもない。
もう。
世界そのものが。
明確な目的を持って、
恋愛イベントを成立させようとしている。
その頃。
学園旧校舎。
崩れかけた回廊。
月光。
風。
その中央で。
ミレイユ・フェルナン
が、
一人で泣いていた。
「……いや……」
「もう、
嫌……」
涙が落ちるたび。
空間が、
脈打つ。
どくん。
どくん。
彼女の周囲だけ。
現実が、
鼓動している。
石畳が揺れ。
空気が震え。
光が、
感情へ呼応する。
まるで。
世界そのものが、
彼女の恋を待っているみたいに。
その異様な光景を見ながら。
レオノーラは、
静かに目を細めた。
そして。
疲れきった声で、
独白する。
「この世界、
“恋愛成就”のためなら、
現実法則すら捨てますのね……」




