シーン5 「主人公強制ルート」
もう、
限界だった。
ミレイユ・フェルナン
は走っていた。
学園廊下。
人を避け。
視線を避け。
声を避け。
ただ、
逃げる。
胸が苦しい。
怖い。
誰かと目が合うだけで、
世界がおかしくなる。
笑えば花が舞う。
近づけば光が差す。
少し感情が動けば、
空間が共鳴する。
もう嫌だった。
「やだ……」
小さく呟く。
「もう、
誰とも関わりたくない……」
だが。
世界は、
それを許さない。
曲がり角。
誰もいないはずだった。
なのに。
「ミレイユ!」
偶然。
アルベルト・ルクレール
が現れる。
空間魔力、
即座に反応。
花弁。
逆光。
風。
最悪。
「っ……!」
ミレイユは、
反射的に逃げた。
階段を下りる。
渡り廊下を抜ける。
資料室へ飛び込む。
扉を閉める。
鍵を掛ける。
息を切らしながら、
壁へ背中を預けた。
「はぁ……っ、
はぁ……っ……」
静か。
誰もいない。
――はずだった。
「偶然だな」
声。
背後。
ミレイユ、
凍る。
そこには。
ガイウス・ベルンハルト
がいた。
おかしい。
ありえない。
ここ、
施錠された資料室だ。
なのに。
“二人きり”。
成立している。
しかも。
かちり。
扉が、
勝手に閉まる。
鍵。
動かない。
空間固定。
逃走不能。
さらに。
どこからか、
音楽が流れ始める。
意味が分からない。
窓の外。
夕日強化。
光粒子発生。
完全にイベント空間。
恋愛イベントが、
もう演出ではない。
捕獲装置になっていた。
「っ……いや……!」
ミレイユは、
本気で怯える。
ガイウスも困惑していた。
「ちょ、
待て、
俺は別に――」
だが。
空間が、
聞いていない。
二人の距離を、
勝手に縮める。
床の光。
花弁。
甘い空気。
強制演出。
世界が、
必死に“ルート成立”を狙っている。
そして。
その瞬間。
ミレイユは、
ついに理解してしまう。
ぞっとするほど、
冷たい理解だった。
「……違う」
震える声。
「世界、
わたしを人として見てない」
一拍。
涙が落ちる。
「“主人公”として扱ってる」
人格じゃない。
意思じゃない。
感情じゃない。
ただ。
恋愛イベントを発生させるための、
“機能”。
世界そのものが。
彼女を、
そう扱っている。
その事実が。
何より恐ろしかった。




