シーン4 「時間遅延」
異常は、
まだ終わらなかった。
むしろ。
ここからが本番だった。
十一時二十分。
王都全域で、
新たな観測異常。
「……時計が合いません!」
観測室。
職員の悲鳴が響く。
「東区と中央区で、
三分の時間差発生!」
「いや待て、
西区はさらに遅れてる!!」
「魔導時計、
同期不能!!」
空気が凍る。
時間。
それは、
国家運営の基盤だ。
物流。
交通。
医療。
工事。
全部、
時間基準で動いている。
それが。
狂い始めた。
一方。
王都中央広場。
若い男女が、
見つめ合っていた。
夕日。
花吹雪。
柔らかい風。
完璧な雰囲気。
「……綺麗だね」
「ああ」
その瞬間だけ。
時間が、
異様に長い。
周囲の人間には、
一瞬に見える。
だが。
観測上。
そこだけ時間流速が低下していた。
つまり。
“いい雰囲気”だけ長い。
最悪だった。
しかも。
局地的。
恋愛イベント発生空間だけ、
時間が引き伸ばされる。
結果。
都市機能が死ぬ。
「会議が終わりません!!」
王都庁舎。
官僚たち絶叫。
原因。
廊下で恋愛イベント発生。
“いい空気”が長引きすぎて、
会議室外時間が停滞。
「次の議題入れねぇ!!」
さらに。
中央転移門。
列が進まない。
「おい、
さっきから同じ二人が見つめ合ってるぞ!?」
「時間止まってない!?」
実際、
少し止まっていた。
工事区域も酷い。
東区復旧現場。
「資材持ってこい!!」
「今行く!」
だが。
途中で。
偶然の再会イベント発生。
時間遅延。
資材到着、
二十三分遅れ。
現場監督、
発狂寸前。
医療も終わっていた。
「処置室、
時間流異常!」
「麻酔効力時間ズレてます!!」
「患者搬送間に合いません!!」
そして。
避難誘導。
完全崩壊。
人々が、
恋愛イベント空間へ足止めされる。
「ちょっと待って、
今いいところだから……」
「いや避難しろ!!」
「でも空気が……!」
空気で死ぬな。
災害対策本部。
空気が重い。
誰もが疲弊している。
その中央で。
レオノーラ・ヴァレンシュタイン
は、
両手で頭を抱えていた。
机の上。
時間流観測グラフ。
全部おかしい。
全部終わってる。
そして。
彼女は、
静かに呟いた。
「時間演出まで始めましたの……?」
誰も否定できなかった。
運命律は今。
空間だけでは飽き足らず。
“恋愛シーンを盛り上げるために、
時間そのものを編集し始めている”。
つまり。
世界が、
本気で脚本家になっていた。




