シーン5 「ヒロイン暴走」
中央ホール。
悲鳴。
歓声。
光。
音楽。
全部が、
ぐちゃぐちゃに混ざっていた。
その中心で。
ミレイユ・フェルナン
は、
震えていた。
逃げたい。
離れたい。
もうやめてほしい。
なのに。
世界が、
逃がさない。
扉は、
都合よく閉まる。
人波は、
勝手に二人を囲む。
照明は、
彼女へ集中する。
音楽は、
恋愛演出をやめない。
まるで。
世界そのものが。
「恋をしろ」
と、
命令しているみたいだった。
ミレイユは、
息を詰まらせる。
「いや……」
また。
空間が光る。
花弁が舞う。
誰かが歓声を上げる。
「運命的……!」
違う。
違う。
違う。
わたしは、
そんなもの、
望んでいない。
その瞬間。
彼女の中で、
何かが限界を超えた。
「もう、
やめて……!!」
叫び。
同時に。
どくん。
王都全域の魔力が、
共鳴した。
次の瞬間。
空が、
裂けた。
人工星空を構成していた巨大魔法陣が、
亀裂音を立てる。
ばきばきばきっ――!!
夜空の星々が、
崩壊。
光の破片となって降り注ぐ。
空中花弁演出は、
完全制御喪失。
嵐。
薔薇の暴風。
視界が真紅に染まる。
さらに。
浮遊楽団が、
狂った。
演奏速度加速。
音程崩壊。
空中で、
魔力爆発を繰り返しながら暴走飛行。
人々が悲鳴を上げる。
「きゃあああ!!」
「空が!!」
「魔法陣が崩れてる!!」
王都全域。
建物の窓が震える。
街灯が明滅。
魔力導管が悲鳴を上げる。
空には。
巨大な光の亀裂。
まるで、
夜空そのものが割れたみたいだった。
中央ホールの床が揺れる。
浮遊宮殿、
高度低下。
パニック。
転倒。
泣き声。
誰も、
もう舞踏会どころではない。
そして。
その暴走の中心。
ミレイユの周囲だけ、
異様に光っていた。
感情。
恐怖。
拒絶。
混乱。
その全部へ、
運命律が反応している。
彼女が、
恋愛を拒絶するほど。
世界は逆に、
恋愛イベントを強制してくる。
最悪だった。
一方。
対策本部。
観測盤を見ていた
セシル・アークライト
の顔から、
初めて笑みが消えた。
「まずい」
静かな声。
だが。
部屋の空気が凍るには十分だった。
レオノーラが振り向く。
「何がですの?」
セシルは、
異常値を示す観測盤を睨みながら言った。
「世界が」
一拍。
「“主人公ルート”を、
強制成立させようとしてる」
その瞬間。
王都上空の巨大魔法陣が。
完全に、
割れた。




