↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第二章《風渡りの大地と、言葉を聞く魔物たち編》

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
73/83

魔物と話す交渉士ですが、通訳はできません

 獣耳の男が語った話を聞いて、俺は思わず首を傾げた。


「その魔物、何て喋ったんだ?」


「いや、喋ってはいない」


「……ちょっと待て。そこ、かなり大事だぞ」


 人間の言葉を理解している魔物がいるという話だったから、てっきり会話でもしたのかと思ったのだが、どうやらそうではないらしい。


 以前、人間の言葉を話す魔物には実際に出会っている。それでも、すべての魔物と自由に意思疎通ができるわけではないし、こちらの言葉に反応したからといって、意味まで理解しているとは限らない。


 男はそんな俺の反応が意外だったらしく、頭の上の耳をぴくりと動かした。


「お前は魔物と話せると聞いていたが、違うのか?」


「話しかけることはできるよ。向こうが理解してくれるかは別だけど」


「では、魔物の考えていることは?」


「分からん」


「……そうなのか」


「期待させて悪いけど、俺は魔物語の通訳じゃないんでね」


 隣でミミナが吹き出した。


「魔物語って何?」


「……俺が知りたい」


 そもそも魔物に共通の言語があるのかさえ分からないのだから、通訳なんてできるはずがない。


 固有技能《縁》も、相手の心を読んだり、考えを直接伝えたりする能力ではない。互いを理解し、力を合わせる助けにはなるが、それだって相手との関係があってこそだ。


 男は少し考え込んでから、改めて俺へ向き直った。


「なら、最初から説明した方がよさそうだな。俺はロアン。北東の国境にある風渡りの高原から来た、フェルナ族の者だ」


「俺は神崎ユウト。こっちはリリア、ミミナ、ノア。よろしく」


 俺が三人を紹介すると、ロアンはそれぞれに軽く頭を下げた。


 改めて見ると、年齢は俺とそれほど変わらなさそうだった。茶色がかった短い髪の間から尖った獣耳が伸び、腰の後ろでは長い尾がゆっくり揺れている。使い込まれた旅装には細かな土埃が残っており、ここまで長い道のりを越えてきたことがうかがえた。


「フェルナ族って、初めて聞いたな」


「この辺りでは珍しいかもしれない。俺達は高原の谷沿いに集落を作って暮らしている」


 ロアンは背負っていた鞄から一枚の布を取り出し、近くのテーブルに広げた。


 最初は何かの敷物かと思ったが、よく見ると山や川、街道らしきものが色とりどりの糸で縫い込まれている。


「これ、地図なのか?」


「ああ。俺達の土地では昔からこうして地図を作る。布なら畳んで持ち歩けるし、破れても縫い直せるからな」


 描かれていたのは、これまで見たことのない広大な土地だった。


 いくつもの山脈に囲まれた高原には、緑の草地が広がり、その間を縫うように青い川が流れている。谷をまたぐ細い橋が何本も描かれ、その先には大きな湖と、小さな町の印が並んでいた。


「うわ……すごいな、ここ」


 思わず身を乗り出すと、ロアンが少し嬉しそうに笑った。


「風渡りの高原は景色のいい土地だぞ。谷には一年中強い風が吹いていて、橋には鈴が吊るしてある。霧で道が見えなくなっても、鈴の音を頼りに歩けるんだ」


「橋に鈴?」


「そうだ。風の強い日は、谷のあちこちから音が聞こえる」


 頭の中に、その景色が浮かんだ。


 緑の高原を渡る風と、谷に響く鈴の音。見たこともない町へ続く橋を歩きながら、遠くの山々を眺めるなんて、いかにも異世界の冒険らしいじゃないか。


 思えば、最近は地下施設や黒い装置ばかり見ていた。


 せっかく異世界へ来たのだから、こういう場所にも行ってみたかったのだ。


「ユウト、顔が嬉しそうだよ」


 ミミナに言われ、慌てて表情を戻す。


「いや、まぁ…地下ばかりだったし。ちょっと…行ってみたいなぁって」


「分かる! 私も行ってみたい!」


「まだ依頼を受けると決まったわけではありませんよ」


 ノアの冷静な声に、俺達は揃って口を閉じた。


 そうだった。これは観光案内ではなく、魔物の大移動に関する調査依頼なのだ。


 ロアンはそんなやり取りを見て小さく笑ったあと、地図の東側を指さした。


「今、この辺りから西へ向かって、魔物の群れが移動している」


 彼の指が地図の上をゆっくり滑る。


「最初は草原に住む小型の魔物だけだった。だが、数日もしないうちに、森や山にいるはずの魔物まで移動を始めた。普段なら縄張りを離れないような大型の奴もいる」


「全部が同じ方向へ?」


「いや。大まかには西へ向かっているが、途中で別の谷へ入る群れもいるし、同じ場所に何日も留まっている奴らもいる」


 どうやら、一つの群れが移動しているだけではないらしい。


 ただ、種類の違う魔物達が同じ時期に動き始めたとしても、その理由まで同じとは限らない。気候の変化かもしれないし、食べ物を探しているだけの魔物もいるだろう。


「移動している魔物達は、人を襲っているのか?」


 俺が尋ねると、ロアンは首を横に振った。


「今のところ、集落への襲撃は確認されていない。だが、住民が魔物に遭遇する回数は明らかに増えている」


「近づかれただけでも怖いよな」


「ああ。実際、子供達が危険な目に遭いかけた」


 ロアンの表情が険しくなった。


「五日前のことだ。集落の子供達が谷に架かった橋を渡ろうとした時、向こう岸から大きな魔物の群れが現れた」


 彼が指さした橋は、地図の中央にあった。


 谷を越えるための細い道がそこにしかないのだとすれば、大型の魔物と鉢合わせるのは相当危険だろう。


「先頭にいた魔物は、肩の高さだけでも荷馬車ほどあった。子供達は驚いて立ちすくんでしまってな。俺は慌てて橋の前へ出たんだ」


「一人で?」


「近くにいた大人は俺だけだった」


 それなら、止めようとした気持ちは分かる。


 もっとも、俺だったら足が震えてまともに立っていられたか怪しい。


「どうやって止めたんだ?」


「叫んだ。子供がいるから橋には来るな、下流の浅瀬を通ってくれ、と」


「それで?」


「先頭の魔物が立ち止まった」


 ロアンはその時の様子を思い出すように、少し間を置いた。


「俺をじっと見たあと、群れの進む方向を変えたんだ。橋には近づかず、下流の浅瀬へ向かっていった」


「……なるほど」


 確かに、不思議な話だった。


 ただ、こちらの言葉を理解したと断言するには、まだ材料が足りない。人間の声に警戒しただけかもしれないし、もともと浅瀬を通るつもりだった可能性もある。


「その魔物、襲ってくるような様子はあった?」


「いや。少なくとも、俺が見た限りではなかった」


「じゃあ、道を変えた理由はまだ分からないな」


「ああ。俺もそう思う」


 ロアンは素直に頷いた。


「だが、あいつが俺の声に反応したのは確かなんだ。だから、もう一度確かめたい」


 リリアが地図へ目を落とした。


「その橋は、集落の方々も普段から利用するのですか?」


「ああ。ほかの道を使うと、大きく遠回りになる」


「でしたら、今後も同じ場所で遭遇する可能性がありますね。次も道を譲ってくれるとは限りません」


 リリアの指摘に、ロアンは神妙な顔で頷いた。


 たとえ今回の魔物に敵意がなかったとしても、体の大きな魔物が近づくだけで事故は起こり得る。子供が逃げ遅れれば、それだけで命に関わる。


「それで、集落の人達はどうしてるんだ?」


 俺が聞くと、ロアンは困ったように耳を伏せた。


「意見が分かれている。魔物が増える前に追い払うべきだという奴もいれば、今のところ被害がないなら刺激しない方がいいという奴もいる」


「そりゃ、そうなるよな」


「俺達だって魔物が怖くないわけじゃない。集落を守るために戦わなきゃならない時もある。ただ、今はまだ何も分かっていないだろう?」


 ロアンは地図の上に手を置いた。


「だから、まず調べたいんだ。あいつらが何のために移動しているのか、俺達の言葉を理解しているのか。それを確かめてからでも、どうするか決めるのは遅くないと思う」


 その言葉を聞いて、俺は少し嬉しくなった。


 魔物を無条件で信用しているわけでも、危険を軽く考えているわけでもない。自分達の暮らしを守りたいという気持ちを持ちながら、相手の事情も知ろうとしている。


 俺達がこれまでやってきたことと、どこか似ていた。


「……ロアンは、どうして俺を指名したんだ?」


 そう尋ねると、彼はまっすぐこちらを見た。


「魔物を見た瞬間に敵と決めつけない冒険者がいると聞いたからだ。それも、実際に魔物と協力して町を守ったことがあるらしいな」


「俺一人の手柄じゃないけどな」


「分かっている。だからこそ、お前達に頼みたいんだ」


 そう言われると、照れくさい。


 今まで必死に目の前の問題を片づけてきただけなのに、その話が遠くの土地まで届いて、誰かの助けになろうとしている。


 自分でも不思議な気分だった。


          ◇


 その後、俺達は受付職員も交えて依頼内容を確認することにした。


 調査する地域、現地で協力してくれる人、必要な日数、それから危険な魔物と遭遇した場合の対応について、ロアンから詳しく話を聞く。


 ノアは依頼書を受け取ると、真っ先に費用の項目を確認した。


「移動費と宿泊費については、現地側で負担していただけるのですね?」


「ああ。集落から預かってきた金がある」


「医療費と調査期間の延長についても、事前に取り決めておきたいです。状況次第では予定より滞在が長くなるかもしれませんから」


「分かった。必要なら集落の代表とも相談する」


 ノアは頷き、確認が必要な箇所を受付職員に伝えた。


 こういう時の彼女は本当に頼りになる。


 俺だったら、現地へ着いてから宿代が足りないことに気づき、みんなに怒られていたかもしれない。


「ミミナはどう思う?」


 俺が尋ねると、彼女は地図を覗き込んだまま答えた。


「魔物が移動してる理由は気になるけど、今の話だけじゃ魔力が関係してるかも分からないよ。現地で様子を見ないと何とも言えないと思う」


「そうだよなぁ」


「うん。それに、魔物の種類が違うなら、全部同じ理由で動いてるとも限らないしね」


 以前は魔法で何とかしようとすることも多かったミミナだが、今は自分の得意分野を理解したうえで、必要な情報を考えられるようになっている。


 頼もしい限りだ。


 ちなみに、俺は相変わらず剣をまともに振れない。


 仲間達が着実に成長していく中、俺の筋力だけは取り残されている気がする。


「ユウト?」


 リリアに声をかけられ、我に返った。


「何?」


「先ほどから考え込んでいますが、何か気になることでも?」


「いや、みんな頼もしくなったなと思って」


「ユウトも十分頼りになりますよ」


「そうかな?」


「はい。少なくとも、私達はユウトがいるからこそ、こうして一緒に旅を続けられているのだと思います」


 思いがけない言葉に、少しだけ返事が遅れた。


 リリアは普段から真面目だが、こういうことを何のためらいもなく言えるところがある。


 お世辞ではなく、本気でそう思ってくれているのだろう。


「……ありがとう」


「どういたしまして」


 彼女が微笑んだ。


 その横で、ミミナがにやにやしている。


「ユウト、照れてる?」


「照れてない」


「絶対照れてる!」


「依頼の話に戻ろうか!」


 俺が慌てて地図へ視線を戻すと、ロアンが楽しそうに笑った。


「ずいぶん仲がいいんだな」


「まあ、色々あったからな」


 短い言葉では説明できないことばかりだった。


 危険な目にも何度も遭ったし、俺の判断が間違っていたことだってある。それでも、こうして四人で笑っていられるのは、誰か一人が頑張ったからではない。


 だからこそ、今回の依頼も俺一人では決められない。


「みんなはどう思う? 俺は行ってみたいと思ってるけど、危険な場所なのは確かだし、無理にとは言わない」


 リリアは少し考えてから口を開いた。


「魔物と人が衝突する前に状況を調べられるなら、意味のある依頼だと思います。私は賛成です」


「私も!」


 ミミナが元気よく手を挙げる。


「知らない魔物も気になるし、高原も見てみたい! それに、ロアンの話を聞いてたら、ちょっと楽しそうだもん」


「観光じゃないぞ?」


「分かってるって!」


 本当に分かっているのか少し不安だったが、正直に言えば俺も同じ気持ちだった。


 ノアは確認を終えた依頼書を机に置く。


「条件が整うなら、私も反対しません。ただし、出発前に休養を取ること。それから、現地では無理な調査をしないと約束してください」


「分かってる」


「本当ですか?」


「……ま…あ?」


「そこは言い切ってください」


 ノアの視線が少し厳しくなったので、俺は慌てて頷いた。


 こうして仲間達の意思を確認したあと、俺は改めてロアンへ向き直った。


「よし。依頼を受けるよ」


 ロアンの耳がぴんと立った。


「本当か!?」


「ああ。ただし、必ず魔物と話せるとは約束できないし、危険だと判断したら調査を中断することもある。それでもいいか?」


「もちろんだ。無理をしてほしいわけじゃない」


「なら、まずは現地を見せてもらおう。何が起きているのか、俺達も一緒に考えるよ」


 差し出した手を、ロアンが力強く握り返した。


「ありがとう、ユウト。助かる」


 その顔には、初めて会った時にはなかった安堵の色が浮かんでいた。


 俺ができることなんて、相変わらず大したものではない。


 それでも、誰かが困っている時に、話を聞いて一緒に考えるくらいならできる。


 今までだって、そうやって何とかしてきたのだから。


          ◇


 翌日は旅の準備に使い、俺達はその次の朝、リベルタを出発することになった。


 リリアは装備を点検し、ミミナは必要な魔法道具を揃え、ノアは薬と旅費を確認している。


 俺も荷物運びを手伝おうとしたのだが、少し重い木箱を持ち上げただけで腰が悲鳴を上げたため、結局は軽い荷物を仕分ける係になった。


「ユウト、本当に力ないよね」


 ミミナが笑いながら言った。


「自分でも分かってるよ」


「でも、今回はユウトが指名されたんだよね」


「そうらしいな」


「すごいじゃん!」


 何気なく言われたその一言が、妙に胸に残った。


 剣もまともに扱えない俺が冒険者としてやっていけるのか、最初は本気で不安だった。強い敵が現れれば誰かに守ってもらうしかないし、今だって荷物一つ満足に運べない。


 それなのに、遠くの土地からわざわざ俺を訪ねてくる人がいる。


 不思議なものだ。


 異世界へ来たばかりの頃には、こんな日が来るなんて想像もしていなかった。


「……まあ、頑張るか」


「何か言った?」


「いや、次の旅もよろしくって」


 ミミナは一瞬きょとんとしたあと、嬉しそうに笑った。


「もちろん!」


 その笑顔を見て、俺も自然と笑っていた。


 窓の外には、夕日に染まるリベルタの街並みが広がっている。行き交う人々の声に混じって、どこかの店から食欲をそそる匂いが漂ってきた。


 久しぶりに帰ってきた街を、もう少し楽しみたい気持ちもある。


 だが、頭に浮かぶのはロアンが見せてくれた地図だった。


 風に鳴る鈴の橋や、空を映す大きな湖。まだ見たことのない町や、初めて出会う種族。


 世界には、俺の知らない場所がまだまだあるのだ。


 そう考えると、明日が少し楽しみになった。


          ◇


 出発の日、空は気持ちよく晴れ渡っていた。


 リベルタの城壁を抜けると、街道の両側には緑の草原が広がり、遠くには低い丘がいくつも連なっている。風が吹くたびに草が波のように揺れ、空を流れる白い雲が地面に大きな影を落としていた。


 少し前まで地下の暗い施設ばかり歩き回っていたせいか、どこまでも続く青空がやけに眩しく感じられる。


「いい天気だな」


 俺が言うと、隣を歩くロアンが頷いた。


「ああ。高原も今頃は風が気持ちいいはずだ」


「楽しみだな」


「ユウト、完全に遠足気分じゃん」


 ミミナが笑った。


「仕方ないだろ。初めて行く場所なんだから」


「けど、私も楽しみ!」


 俺達が話していると、少し前を歩いていたリリアが振り返った。


「ロアン、この先は街道をそのまま進めばいいのですね?」


「ああ。しばらく行ってから北の道へ入る」


「分かりました。では私が先導を――」


「リリア」


 反射的に声をかける。


「案内はロアンに任せよう」


「……そうですね」


 リリアは少し残念そうだったが、素直に一歩下がった。


 何も知らないロアンが不思議そうに俺達を見る。


「何か問題でもあるのか?」


「いや、道案内に関しては、ちょっとな」


「ちょっと?」


「そのうち分かるよ」


「ユウト!」


 リリアの抗議に、ミミナが声を上げて笑った。


 こういうやり取りも、何だか久しぶりな気がする。


 新しい土地へ向かうというのに、仲間達はいつも通りだ。それが心強くもあり、少しだけ可笑しかった。


 俺達は笑いながら街道を進んでいたのだが、しばらくしてロアンが不意に足を止めた。


「……あれは」


 彼が見上げた先を、俺達も追った。


 青空の高いところを、大きな鳥のような影がいくつも横切っていた。


 最初は普通の鳥かと思ったが、翼の形が明らかに違う。横へ大きく広がった薄い翼は、風を受けた船の帆のように緩やかに曲がり、日差しを浴びると淡い青色に透けて見えた。


 その姿は美しく、俺は思わず足を止めて見入ってしまった。


「……何だ、あれ」


「青帆鳥だ」


 ロアンが答えた。


「風渡りの高原に住む魔物だ。大きな翼で風を受けて、ほとんど羽ばたかずに空を飛ぶ」


「へえ……すごいな」


 ミミナも空を見上げていた。


「綺麗……! あんな魔物、初めて見た!」


 上空を滑るように進む青帆鳥達は、時折翼の角度を変えながら、ゆっくりと西へ向かっていた。


 普通の鳥とは比べものにならないほど大きいのに、その動きは驚くほど優雅だ。


 リリアも目を細め、遠ざかっていく群れを見つめていた。


「高原には、あのような魔物もいるのですね」


「ああ。ただ……」


 ロアンの声が少し変わった。


「青帆鳥がここまで来るのは珍しい」


「そうなのか?」


「普段は高原の上昇気流に乗って暮らしている。季節によって移動することはあるが、この時期に、こんなに遠くまで来るとは聞いたことがない」


 俺はもう一度、空を見上げた。


 青帆鳥達は俺達の進む方向とは反対に、西へ向かって飛び続けている。


 これも、魔物の大移動の一つなのだろうか。


「ロアン、あいつらも何かから逃げてるのかな?」


「分からない。だが、風の流れに乗っているだけなら、わざわざ高原を離れる必要はないはずだ」


 ロアンは少し考え込んだあと、再び歩き始めた。


「高原へ行けば、もっと色々なことが分かると思う」


「そうだな」


 俺も歩き出そうとして、ふと足を止めた。


 空の向こうへ消えていく青帆鳥達を見ているうちに、妙なことに気づいたのだ。


 魔物達が西へ移動しているというのなら、俺達は今、その流れに逆らって東へ向かおうとしていることになる。


 つまり、これから進む先には、彼らが離れた場所がある。


 そこに何があるのかは、まだ誰にも分からない。


「……ユウト?」


 ミミナが振り返った。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと考えてた」


「また何か難しいこと?」


「いや、そんな大したことじゃないよ」


 俺は首を振り、みんなの後を追った。


 もし、あの魔物達が何かから逃げているのなら、その理由を知る必要がある。


 けれど、彼らが自分の意思で新しい場所を探しているのだとしたら、無理に元の土地へ戻すことが正しいとは限らない。


 今回も、簡単に答えは出そうになかった。


 まあ、まだ始まったばかりの旅で、そう結論を急ぐ必要もないだろう。


 まずは自分の目で見て、話を聞いて、できることを考えればいい。


「よし、行こう!」


 俺が声を上げると、三人がこちらを見た。


 ロアンも頷き、先頭に立って歩き始める。


 新しい土地、新しい種族、そしてまだ見たことのない魔物達。


 これから先、どんな景色が待っているのか。


 危険な目には遭いたくないし、できれば今度こそ平和な旅であってほしい。


 それでも、胸の奥には確かな期待が広がっていた。


 剣を振るう力も、敵を倒す魔法も、相変わらず俺にはない。


 だけど、俺には頼れる仲間がいる。


 それに、今度は俺を頼ってくれた人もいる。


 だったら、少しくらい胸を張ってもいいだろう。


 風に揺れる草原を眺めながら、俺は大きく息を吸い込んだ。


 目指すのは、まだ見ぬ風渡りの高原。


 俺達の新しい冒険は、こうして始まった。


        ――第七十三話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回から、いよいよ第二章《風渡りの大地と、言葉を聞く魔物たち編》が始まりました!


第一章では魔物達の住処を巡る事件に向き合ってきたユウト達ですが、第二章では新しい土地へと旅立ちます。


新たに登場したフェルナ族のロアン、風渡りの高原、そして空を舞う青帆鳥。


これからは未知の種族や魔物との出会いを通じて、さらに広い異世界の魅力を描いていきたいと思います。


もちろん、ユウトの戦闘力は相変わらずです。


剣も魔法も頼りない彼ですが、仲間達とともに、今度はどんな出会いや騒動が待っているのでしょうか。


第二章も笑いあり、冒険あり、時には胸が熱くなるような物語をお届けしていきます!


面白いと思っていただけたら、ブックマーク・評価・感想で応援していただけると、とても励みになります。


これからもユウト達の旅を、どうぞよろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。