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『剣も鎧も重すぎる! ~異世界で使えるのは笑顔と口先だけでした~』  作者: -eto-
第一章《夜棘と、住処を追われた魔物たち編》

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魔物を助けるために、今日は魔物を倒すことにしました

 裂牙獣は三頭。


 盆地へ追い込まれている魔物は数十頭。


 数だけを見れば、こちらの方が圧倒的に多い。


 けれど、それで戦えるわけではない。


 ホーンラビットも小型の鹿も、戦うためにここへ集まったのではなく、《夜棘》から逃げ続けた末に追い込まれただけだ。


 傷ついている個体も多い。


 そこを裂牙獣に狙われている。


「ユウト、どうしますか」


 リリアの問いに、俺はすぐには答えなかった。


 裂牙獣を見る。


 赤褐色の大型個体が、灰耳へ何度も突進している。


 残る二頭は左右へ広がり、群れから弱い個体を切り離そうとしていた。


 狩りだ。


 相手も生きるために獲物を襲っている。


 それ自体を悪だと言うつもりはない。


 でも。


「あそこにいる魔物達を食わせるわけにはいかない」


「では?」


「止める」


 俺は一度息を吸った。


「話して止まらないなら、倒すしかないだろ」


 口にすると、少しだけ胸が重くなった。


 今まで俺達は、できるだけ戦わずに済む道を探してきた。


 でも、それは何があっても戦わないという意味ではない。


「分かりました」


 リリアは迷わなかった。


「ミミナ、私へ脚力強化を。急加速が必要です」


「対象リリア、効果は脚力と踏み込み強化、強さ二十五パーセント、時間四十秒!」


 ミミナが迷いなく杖を向ける。


「ノアは負傷個体をお願いします」


「こちらは任せてください。ただし、前へは出すぎないでください」


「それ、リリアに言ってる?」


「主にユウトです」


「まだ何もしてないのに」


「これからするのでしょう?」


「よく分かってる」


 俺は斜面を駆け下りるリリアの後を追った。


 もちろん速度は全然違う。


「速っ!」


 白銀の鎧が斜面を滑るように下り、そのまま灰耳を襲おうとしていた裂牙獣へ飛び込む。


「《蒼月》!」


 青白い光が一閃した。


 裂牙獣が横へ跳ぶ。


 完全には避けられず、肩口から血が飛んだ。


 獣は怒りの咆哮を上げ、標的を灰耳からリリアへ変える。


「一頭こっち!」


 ミミナが叫ぶ。


 右側へ回り込んでいた裂牙獣が俺達へ向かってきた。


「なんで俺の方!?」


「ユウトが一番弱そうだからじゃない!?」


「正しいけど今言わんでいい!」


 俺は走る!


 戦略的撤退だ!


 格好よく言えばそうなるが実態は全力逃走だ。


 裂牙獣が距離を詰めてくる。


 速い。


「ミミナさーん!」


「はいはい!」


 杖の青い宝珠が光る。


「対象、裂牙獣! 効果、重量増加! 強さ二十パーセント、時間八秒!」


 裂牙獣の前脚が一瞬沈んだ。


 走る速度が落ちる。


「八秒!?」


「いきなり強くしすぎると危ないでしょ!」


「偉いぞー、偉いけど今はもうちょっと頑張って!」


「注文多い!」


 すると灰色の影が横から飛び込む。


 灰耳だ。


 裂牙獣の首へ噛みつくのではなく、前脚へ体当たりし、進路を変える。


「助かったぁ!」


 胸の奥で《縁》が震えた。


 言葉はない。


 それでも、次に灰耳がどう動こうとしているかが、ほんのわずかに伝わる。


「左へ行くのか?」


 灰耳が走る。


「ミミナ、左側を空けて!」


「了解!」


 俺が叫んだ瞬間、ミミナは魔法を解除した。


 身体が軽くなった裂牙獣が灰耳を追い、左へ進む。


 そこへ上空から雷光が落ちた。


 蒼雷鷲だ。


 轟音。


 地面が弾け、裂牙獣が大きく横転する。


「今!」


 リリアが一頭目を蹴り飛ばし、そのままこちらへ走る。


 青白い斬撃が倒れた裂牙獣の首元を正確に捉えた。


 獣の動きが止まる。


 一頭。


 胸が少し冷える。


 でも、目を逸らしてはいけない。


 俺達が選んだ結果だ。


          ◇


 残り二頭は、仲間が倒れても逃げなかった。


 むしろ興奮したように牙を剥き、別方向から群れへ飛び込もうとする。


「散らされる!」


 群れが混乱すれば、幼い個体から狙われる。


「灰耳!」


 俺が叫ぶ。


 伝わる保証なんてない。


 それでも灰耳は一度こちらを見て、すぐ群れの前へ走った。


 数頭のフォレストウルフもそれについていく。


 逃げるだけだった群れの中に、一つの壁ができる。


「リリア、正面を任せる!」


「はい!」


「ミミナ、右の一頭の足を遅くする!今度は重くするんじゃなく、地面を滑りにくく出来るか?」


「地面?」


「足場を滑りにくくして、裂牙獣の方だけ踏み込みを崩したい!」


「それなら――」


 ミミナが一瞬考える。


「対象、右側斜面! 効果、摩擦増加! 強さ四十パーセント、時間十五秒!」


「頼んどいてなんだが…本当に出来るんだ!?」


「付与できるものならね!」


 右側から走ってきた裂牙獣の脚が地面へ引っかかる。


 速度が落ちた。


 ただ止まるほどではない。


「十分!」


 俺は群れを見る。


 右へ逃げれば《夜棘》。


 左は岩壁。


 後ろは崖。


 だったら、裂牙獣を正面から押し返すしかない。


「リリア、前へ出すな!」


「承知しました!」


 リリアが剣の腹で裂牙獣の頭部を弾く。


 噛みつかれる寸前まで引きつけ、その動きを利用して身体を流す。


 力で勝つのではなく、進行方向をずらす。


「ノア!」


「こちらは大丈夫です!」


 群れの中で、ノアの《癒しの灯》が淡く広がっていた。


 傷ついた鹿。


 脚を引きずるホーンラビット。


 裂牙獣に噛まれたフォレストウルフ。


 種族なんて関係なく、目の前の怪我人――いや、怪我をした魔物を治している。


「ミミナ、あと何秒ある!?」


「七秒!」


「切れたら右の個体が走る!」


「分かってる!」


 蒼雷鷲が旋回する。


 でも右脚はまだ完全ではない。


 何度も雷を撃たせるわけにはいかない。


「無理するな!」


 俺が叫ぶと、蒼雷鷲が一度高く鳴いた。


 聞いてくれたのかは分からない。


 ただ、次は雷を撃たずに急降下し、翼で裂牙獣の進路を塞いだ。


「それでいい!」


 灰耳達が側面へ回る。


 一瞬だけ裂牙獣が止まった。


 リリアが地を蹴る。


「《蒼月》!」


 二頭目が倒れる。


 最後の一頭は状況を理解したようだった。


 周囲を見る。


 仲間二頭は倒れている。


 正面にはリリア。


 横にはフォレストウルフ。


 空には蒼雷鷲。


 裂牙獣が低く唸る。


「逃げるなら追わない」


 俺はそう言った。


 言葉が通じたからではない。


 自分達への確認だった。


「襲ってこないなら、殺す必要はない」


 リリアが剣を下げずに頷く。


「はい」


 灰耳も追わない。


 裂牙獣がゆっくり後退する。


 一歩。


 二歩。


 すると群れの中から、小さなホーンラビットが動いた。


 裂牙獣の目がそちらへ向き、身体が沈む。


「あ」


 次の瞬間、裂牙獣は獲物へ向かって跳んだ。


「ちっ!リリア!!」


 俺の声より、彼女の方が速かった。


 銀色の軌跡。


 最後の裂牙獣が地面へ落ち、動かなかくなった。


 静かになった盆地に、俺達の荒い呼吸だけが残る。


          ◇


「……助けられなかったな」


 俺は倒れた裂牙獣を見る。


 誰もすぐには答えなかった。


 少しして、リリアが剣の血を払う。


「助けようとすることと、全てを助けられることは別です」


「分かってるさ」


「それに」


 リリアは群れを見る。


「私達が何もしなければ、別の命が失われていました」


 分かっているのだが、それでも少し重い。


 今までみたいに、《夜棘》を抜けば元に戻る相手ではなかった。


 こいつらはただ狩りをしていた。


 そして俺達は、それを止めるために倒した。


「魔物だから悪いんじゃない」


 俺が呟く。


「魔物だからといって全部助けるべきじゃないのは、頭では分かってたんだ」


 ノアが俺の横へ来た。


「それは人間相手でも同じでしょう」


「うん」


 そうだった。


 種族ではなく、何をしているかを見る。


 それが俺達のやり方だったはずだ。


 灰耳が近づいてきた。


 鼻先で俺の腕を軽く押す。


「慰めてくれてるのか?」


 もう一度押された。


「痛い痛い。意外と力強いから」


 ミミナが笑う。


「元気出せってことじゃない?」


「たぶんね」


 胸の奥が少しだけ軽くなった。


『《縁》が深まりました』


 静かな感覚が伝わる。


 その時、灰耳が突然顔を上げた。


 蒼雷鷲も同時に空を見る。


「何?」


 リリアが警戒する。


 灰耳は盆地の北東側へ走り始めた。


「またついて来いと?」


「今度は何だよ……」


 俺達は群れの安全を確認してから、灰耳の後を追った。


 盆地を回り込み、細い獣道を登る。


 やがて山の中腹に、小さな平地が見えてきた。


 そこで灰耳が止まる。


「……これ」


 地面に、人間の足跡があった。


 一人ではない。


 何度も往復している。


 少し先には、土を掘り返した跡。


 そして…穴の横へ、黒い金属の棒が一本置かれていた。


 まだ地面には刺さっていない。


 俺は足を止めた。


「黒い杭……」


 リリアが周囲を確認する。


「設置前です」


 ミミナが息を呑む。


「じゃあ私達……」


「間に合ったんだ」


 今までは、いつも後手に回ってた。


 《夜棘》が出た後。


 魔物が逃げた後。


 被害が起きた後。


 そこから原因を追ってきた。


 でも今回は違う。


 蒼雷鷲が俺達を探した。


 灰耳が道を教えた。


 今までつないできた《縁》が。


 黒い杭が使われる前に、俺達をここまで連れてきてくれた。


「置いたヤツはまだ近くにいるかもしれません」


 ノアが周囲を見る。


 土は新しく、足跡も残っている。


 そして黒い杭は、ここにある。


「気をつけてください」


 リリアが低い声で言った。


 俺は黒い杭を見つめる。


 ようやく俺達は事件が起こる前に食い止められた。


 今度はこちらが攻める番だ。


          ――第六十話 終

最後までお読みいただきありがとうございます!


今回は、これまでとは少し違う戦いになりました。


《裂牙獣》は、

《夜棘》に操られていたわけではありません。


傷ついて暴走していたわけでもありません。


ただ獲物を狩る魔物でした。


だからこそ、


「魔物だから敵」

でも、

「魔物だから助ける」

でもなく、


目の前の相手が何をしているのかを見て、

ユウト達は戦うことを選びました。


そして戦いのあと。


蒼雷鷲と灰耳がユウト達を導いた先にあったのは、


まだ設置されていない黒い杭。


これまでユウト達は、

事件が起きたあとを追い続けてきました。


ですが今回は違います。


今まで結んできた《縁》によって、

初めて「黒い杭が使われる前」に間に合いました。


ここから第一章の黒い杭の謎も、

いよいよ大きく動き始めます。


第61話へ続きます!


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